第93話 特定

お寺の鐘を鳴らしたかのような重低音が響き渡ると同時に、

衝撃波を肌で感じる。


目の前に立っている要へ視線を移すと、

手に握っていた棍が鉄球の進行を止めていることに気づく。


といってもまだ鉄球自体が完全に静止しているわけではないので油断は禁物だが、

回転の勢いが徐々に無くなっているは明らかだった。


「少し重いっすね。でも、これなら十分耐えきれるっす!」


最初に立っていた場所から少し後退した要だったが、

その後、直ぐに鉄球が動きを止めた。


「お二人とも、お怪我はないっすか?」

体勢はそのままで、後ろを振り向いた要が話しかけてくる。


「ああ……、問題ない」


まさか、この状況で鉄球を真正面から受け止めるとは思ってもみなかった。

規格外のパワーに驚かされた火月だったが、

彼の時計の能力について、おおよその検討がついた。


「よく防ぎきれたな。もしかして、能力を発動したのか?」


「そうっすね。

 流石に能力無しじゃ、潰されてぺしゃんこになっていたと思うっす。

 何を隠そう自分の能力は、一時的な腕力の向上っすから」


裏表のない無邪気な笑顔を向けて言う要を見ていると、

なるほど……確かに、彼にピッタリな能力に思えた。


自分の力を出し切って、正々堂々と正面からぶつかるその姿、

シンプルな力比べといってしまえばその通りなのだが、

火月にはできない戦い方であるのは確かだ。


「それじゃあ、このまま押し返しちゃうので少しだけ待ってて欲しいっす!」


要が鉄球と距離をとるために後方へジャンプする。


棍を頭上に掲げ、クルクルと回し始めたと思ったら、

その勢いを殺さないまま鉄球に向かって走り出し、

まるでバットを振るかのように中心を強打した。


すると、鉄球が下ってきた時よりも速いスピードで坂道を上り始める。


途中道が曲がっているので、

そのまま同じように曲がるのかと思っていたのだが、

上るスピードが速すぎたせいで坂道を曲がり切れず直進した鉄球は、

そのまま壁を破壊して大きな穴を開けたのだった。


「まさに馬鹿力ってやつじゃな」

火月の後ろに隠れていたねぎしおが、目の前で起きた光景を見て呟く。


「そうだな、でもこれで鉄球が戻ってくることはないだろう。

 それに、壁を破壊してくれたおかげで一つ分かったことがある」


「ほう、言うてみよ」


「あの穴の先から怪物の気配を一番強く感じる。

 ようやく居場所が特定できたってわけだ」

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