第91話 距離

三人で遺跡の通路を進んでいくこと数分、最初に口を開いたのは要だった。


「何か、おかしいっすね。

 怪物の気配は強くなっているはずなのに、

 歩いても歩いても居場所が特定できないっす」


「同意見だな。近くにいるはずなのにずっと一定の距離が縮まっていない…

 そんな気がする」


このまま探索を続けても、目的の怪物が見つからなければ意味がない。

長時間の修復活動は、肉体的にも精神的にも少しづつ疲労を蓄積させるので、

できれば避けたかった。


「ん? 通路の出口みたいなものが見えるぞ」

先頭を歩いていたねぎしおが呟く。


「とりあえず、あそこまで進んでみよう。

 同じような道が続くようなら、一度今後の方針を考えた方が良さそうだな」


「了解っす!」



――――


――――――――――



結論から言うと、十メートルほどの距離を歩いて火月達が到着した出口の先には、

高さ三メートル、幅四メートルの坂道が続いていた。


ぱっと見た感じ先が見通せず、途中で道が曲がっているようだ。

おそらく、螺旋構造になっていて上の階層へ続いているのだろう。


「今までの平坦な道とは違うみたいっすね」


「ああ。それに、上の方から怪物の気配を感じるな」


「なら、この坂を上った先に怪物がいるってことじゃな。

 要よ、どちらが先に到着できるか競争じゃ!」


「いいっすね! その勝負、受けて立つっす!」


二人が一斉に坂を上り始める。


「おい、まだ罠が残ってるかもしれないんだから、気をつけろよ!」

と叫んだものの、もう火月の声は届いていないようだった。


思いつきで行動するねぎしおと、真っすぐな性格の要は、

ある意味相性が抜群なのだろうが、

少なくともこの遺跡の中では慎重になってほしかった。


坂道を上り始めて五分が経過した頃だろうか…

大きい音が聞こえたと思ったら、

先を進んでいたねぎしおと要が全力で坂を下ってくるのが見えた。


「そんなところでボケっと突っ立ってないで、 早く下へ戻るんじゃ!」


何をそんなに焦っているんだと不思議に思った火月は、

彼らの後方をジッと見つめる。


そこには、黒い鉄球のようなものが、

激しい音を立てて、こちらに差し迫っていた。

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