第89話 立場

「お前、こんなところで何やってるんだ?」


トリモチの罠に引っ掛かって、

身動きが取れなくなっているねぎしおに話しかける。


「おお! 丁度よいところにやってきたな。さっさと我を助けるがよい!」


こちらから探す手間が省けたのはラッキーだったが、

まさかワープしてくるとは思わなかった。


おそらく、あの円形の紋章も罠の一つなんだろう。


この遺跡の中に、あとどれだけの罠が仕掛けられているのかを考えると、

一抹の不安を覚えずにはいられなかった。


「師匠! お怪我はないっすか?」


隣で同じように身動きが取れなくなっている青年が、

ねぎしおの安否を気遣っていた。


「とりあえず、大丈夫じゃ。

 火月が直ぐに助けてくれるはずじゃから、あと少しの辛抱じゃぞ」


「もしかして、今目の前に立っているのが、師匠の探している下僕さんっすか?」


トリモチの床に張り付いている青年と目が合う。


先に入った修復者は既に喪失したものだとばかり思っていたので、

この異界で自分以外の人間と遭遇するとは思いも寄らなかった。


一時間もの間、彼がどうやって生き延びていたのか興味が湧いたが、

それ以上に気になる発言があった。


「う、うむ。今そこに立っているのが、我の探していた人間なのは間違いない…」

と歯切れの悪い返事をするねぎしおに対し、

「そうっすか! 意外に早く合流出来て良かったっすね!」

と青年が心底嬉しそうな表情をして答える。


「取り込み中のところ申し訳ないが、誰が下僕だって?」

ねぎしおの方をジッと見つめる。


「いや、その何じゃ、言葉の綾みたいなもんじゃ……」


「そうか。とりあえず、何があったのか、

 詳しく聞かせてもらう必要がありそうだな」


「それよりもまず、我をこの罠から解放するのが―――」

ねぎしおの言葉を火月が遮る。


「身動きが取れなくても、口は動かせるよな?」


口元に笑みを浮かべているはずなのに目の奥が笑っていない火月は、

何とも言えない威圧感を放っており、

今一状況が理解できていない要だけが、その場できょとんとしていた。

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