第3章 another side

第71話 配属

「藤堂さん、相変わらず飲み込みが早いね。これなら、うちのチームも安泰だよ」


「全然そんなことないです! 皆さんに比べたら、まだまだ力不足ですので」


北大路のチームに配属されてちょうど1ヶ月が経とうとしていた。


元々は別のプロジェクトに所属していたのだが、

北大路が退職するにあたって、人員補充と新人教育の意味も込めて、

上司からこのチームへの配属を打診された。


社内でも北大路という人間の評判は良く、

何か得るものがあるのではないかと思ったので二つ返事で了承した藤堂だったが、

その予想通り、一緒に仕事をしていく中で、

彼が評価される理由がわかり始めていた。


「謙虚なのは良いことだけどさ、たまには自分を褒めてあげないと駄目だよ。

 言霊の力は馬鹿にできないからね」

と北大路が顔をほころばせながら言う。


時々、変なことを言う人だなとは思っていたが、

どうリアクションをしたらいいのかわからなかったので、

いつも通り愛想笑いをする。


この独特な感性?雰囲気?みたいなものは流石に真似できないなと思った。

彼が周囲から信頼されているのは、このキャラクターあってのものなのだろうか…

と考えていると、時計の針が既に十二時を回っていることに気づいた。


「もうこんな時間だから、仕事の続きは昼休憩が終わってからにしよう」

と北大路が言い残すと、そそくさと席を立ち、そのまま何処かへ行ってしまった。


自分も外でランチを食べようかと考えていると、

近くに座っていた男性社員数名からランチのお誘いがかかる。


配属されてから、ずっとこの調子だ。


藤堂志穂は自他共に認める美人である。

学生の頃に告白された数は、正直覚えていない。

自分の外見が他人にどう評価されているかなんて、正直興味なかったが、

年齢を重ねるうちに、嫌でも自覚せざるを得なくなる。


ただ、美人であっても、それをひけらかすことは決してしない。

何もしてなくても、同性からは疎まれることが多いのに、

わざわざ自分から敵を作る必要はないからだ。


自分の中では普通に接しているつもりなのだが、

相手からは一方的に好意をもたれ、

ぞんざいに扱うと恨まれることも少なくない。


だからといって、相手に合わせると、

男に媚を売っていると思われるので、

もうどうしたらいいのか自分でも分からなくなった結果、

とりあえず終始、明るい笑顔でやり過ごすことに決めた。


ニコニコしながら黙って話を聞くくらいなら、

同性でも異性でも悪い印象をもたれることはないだろうと思ったからだ。


社会人になってから、この笑顔の仮面の出番は多くなった。


そして、この仮面をつける回数が増えれば増えるほど、

どす黒い感情のようなものが、心の中に蓄積されていくのを感じていた。

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