第75話 スーパー

『買い出し』……それは、一人暮らしの人間にとって、

避けては通れないイベントであり、中道火月が苦手とするイベントの一つでもある。


自宅の冷蔵庫に食料が自動的に補充される未来は、

何時になったら来るのだろうか。


今の時代、ネット通販を利用すれば、翌日には荷物が届くのが当たり前になった。

一昔前までは、

外に出なくても買い物ができるなんて誰も予想していなかったに違いない。


しかしながら、『慣れ』というのは恐ろしいもので、

便利な日常が当たり前になると、人は動かなくなり、

更に品質の高いサービスを求めるようになる。


自宅に荷物が届いても、それを開封するのが面倒だ…なんて言ったら、

数年前の自分にでさえ呆れられるだろう。


そんな夢のような冷蔵庫があればと妄想していたが、

少なくとも自分が生きている間には実現しそうにないので、

今日も今日とて近所のスーパーへ買い出しに来ていた。


人混みが苦手な火月にとって、

短時間で買い物を済ませることが最優先事項であるのは言うまでもない。


購入する商品はほとんど決まっているので、自ずと巡回ルートが最適化される。

バナナ、納豆、ヨーグルト、牛乳といった商品を次々と買い物カゴに入れていく。


また、野菜不足を補うために気休め程度ではあるが、野菜ジュースも購入していた。

ちなみに、サラサラのものではなく、ドロドロとした口当たりのものを選んでいる。特に理由はないが、強いて言うならドロドロの方が、

なんとなく効果が高そうな気がしたからだ。


そして、なんと言っても冷凍食品は欠かせない。

レンジでチンすれば、餃子からコロッケ、唐揚げやハンバーグなど

多種多様なおかずが数分で完成するのだ。


仕事から帰ってきて、直ぐに食事の準備ができる冷凍食品は、

料理が苦手な火月にとって救世主のような存在と言っても過言ではない。


「火月よ、あそこから何やら旨そうな匂いがするぞ!」

一緒に買い出しに来ていたねぎしおが、揚げ物コーナーに向かって走り出す。


今までの買い出しと違う点があるとすれば、この鶏の存在くらいだろう。


最初は、鳥の餌なるものを購入していたのだが、

「こんな量では全然足りぬ! もっと腹が膨れるものを食わせるがよい!」

とのお叱りを受けたので、火月が食べているものと同じものを出すようにしていた。


「この食い物は一体何なのじゃ?」

揚げたての唐揚げをジッと見ながらねぎしおが聞いてくる。


「ん? これは唐揚げって食べ物だ。

 この世界じゃ、好きなおかずランキングのベストファイブに入るくらい人気がある」


「ほほう。そんなに人気なら我も一度食してみたいぞ」


「そうか。それじゃあ、お前の晩飯は唐揚げに決定だ」


「うむ! 今から楽しみじゃのう」


近くに置いてあったフードパックを手に取り、

唐揚げを入れていると、ふとあることが頭を過った。


『あれ? これって共食いになるんじゃないのか? 

 いや、こいつは見た目こそ鶏みたいだが、怪物である事実は変わらない。

 だから共食いにはならないのか? 

 でも怪物の中にも鳥類みたいな分類があるとするなら、

 共食いに該当するんじゃ……』


「どうしたのだ? 手が止まっておるぞ」


ねぎしおの声で我に返る。


この件については、あまり考えないようにしようと決めた火月は、

ズボンのポケットの中で、スマホがブルブルと振動していることに気づいた。

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