第4章 生一本

第74話 窮地

先ほどまで歩いてきた坂道を、全力で走って下る。


高さ三メートル、幅四メートルほどの道が螺旋状に伸びているその場所は、

床から壁、天井に至るまで全て象牙色のタイルで覆われており、

何処かの古い遺跡を彷彿とさせた。


「火月よ、あんなものが出てくるなんて聞いておらんぞ!」


「口を動かす暇があったら、黙って足を動かせ!」


言い争って走る二人の後方から、道幅いっぱいの大きさの黒い鉄球が迫り来る。

そこまでスピードは出ていないものの、追い付かれるのは時間の問題だろう。


まさか、こんな古典的なトラップに引っかかるなんて思いもしなかった。

もう少し周りに注意を向けていれば……と後悔し始める火月だったが、

かぶりを振って考えを改める。


『この面子じゃ、どう足掻いても同じ結果になっていただろうな』


冷静に自分の置かれた状況を分析していると、

二十メートルほど前方に、通路へ出るための出口が見えた。


「よし、あそこまで行けば何とかなるかもしれない」


「了解じゃ、こんな所で潰されるわけにはいかないからの」


ねぎしおが返事をしたと思ったら、目的の出口付近で何かが動いているのが見えた。走りながらジッと目を凝らして観察していると、ある異変に気づく。


「まずい……。両側から出口を塞ぐように壁が動き始めたみたいだ。

 このままだと、逃げ道が無くなる」


「何じゃと? とにかく急ぐのじゃ!ここに閉じ込められたらお終いじゃぞ!」


更にスピードを上げ、全力で移動する二人だったが、

その努力も虚しく、あと少しのところで完全に出口が塞がれる。

右手の短剣で、塞がった壁を攻撃するが、鈍い金属音だけが響き渡った。


後ろを振り返り、向かってくる鉄球を見据える。


それなりの高さがある建物なら、

ジャンプして回避することもできたのかもしれないが、

道の高さと幅いっぱいの大きさの鉄球が転がってきている今の状況では、

何処にも逃げる場所なんてなかった。


ふと足元をみると、ねぎしおが火月の後ろに身を隠していた。


「おい、何やってるんだ?」


「せめてお主が我の盾となれば、

 生き残れる可能性が少しは上がるかもしれないからの」


あの大きさの鉄球じゃ、いくら自分を盾にしたところで助からないだろう……

と考えていると、

一緒に逃げていたが話しかけてきた。


「お二人とも、ここは俺に任せてくれないっすか?」


青竹色の懐中時計が、

4尺ほどの長さはありそうな、棍のようなものへと姿を変える。


得物を構え、

目の前に立つ青年の後ろ姿を見て、数時間前の出来事を思い出し始めた。

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