第63話 共闘

二人の視線が交錯する。


彼女の問いかけに、何て返事をしたらいいか分からなかったが、

まずは助けてもらったことに対する感謝の言葉を伝えることにした。


「お陰様で助かりました。ありがとうございます」

深々と頭を下げると

「そんな畏まらないで下さいよ。同じ修復者じゃないですか」

と明るい笑顔で藤堂が答える。


怪物と対面していた時は、もっと異質な雰囲気を感じたが、

今はいつも通りの彼女に戻っていた。


それにしても、扉の中で自分以外の修復者と出会でくわすのは本当に久々だった。


ファーストペンギンとして活動する火月は、

誰よりも早く扉に入り、誰よりも早く異界の情報を持ち帰る必要があるため、

単独行動が基本だからだ。


まさか、会社の後輩に命を救われるとは夢にも思わなかったが…。


「この恩は、いつか必ず返させてもらいますね」


「いえいえ! 私も偶然通りがかっただけなので、お気になさらず」


「でも…」

藤堂をジッと見据えていると、沈黙に耐えられなくなったのか


「それじゃあ、一つだけお願いを聞いてもらってもいいですか?」

と観念した様子で返事をした。


こくりと頷き、了承した旨を目配せすると、藤堂が話を続ける。


「出来れば敬語をやめてほしいなと思いまして…」

と上目遣いにこちらを見る。


「敬語……ですか?」


「はい。同じ修復者なら、対等な関係がベストだと思うんです。

 会社だと先輩と後輩の関係なので、難しいかもしれませんが」


「そんなことで良ければ…。でも、それなら藤堂さんも敬語は無しで」

と伝えると

「わかりました。いきなりは難しいかもしれませんが、やってみます!」

と元気な返事が返ってきた。


振り下ろされたハンマーがゆっくりと持ち上がる。

次の攻撃を仕掛けるため、怪物が態勢を整え始めた。


「お互い、色々と聞きたいことはあると思いま…思うが、

 今は目の前にいる怪物の処理を最優先ってことにしま…しないか?」


「そうですね。こんな面白…いや、危機的状況じゃ、

 四方山話に花を咲かせる訳にもいきませんから」


改めて、巨大な怪物を見上げる。

今まさに、二人の修復者による共闘が始まろうとしていた。

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