第64話 疾風

戦闘の中で知り得た怪物の情報を、手短に藤堂へ伝える。

ついでに火月自身の固有能力についても共有しておいた。


「これだけ情報があれば、かなり有利に立ち回れそうですね」


「まだ相手が出していない攻撃パターンもあるかもしれないから、過信は禁物だ」


「確かに…。とりあえず、中道さんの能力は戦闘向きではないので、

 陽動役って認識でいいですか?」


「…そうだな」


藤堂の解釈は何一つ間違っていなかったが、

『使い物にならない先輩』と暗に言われたような気がして、

心にグサッっときたのはここだけの話だ。


怪物に注意を向けると、再び右腕の大砲の中で白い光が渦を巻いていた。


「あれが例の…?」

藤堂も同じ方向を見ていたようで、確認するように火月に問いかける。


「ああ。一瞬で周囲を氷漬けにするレーザー攻撃だ。

 それなりにスピードもあるから、避けるのに苦労するぞ」


「そうですか…。

 それじゃあ、どっちが速いか試したくなりますね」


「それって、どう言う意味だ?」


質問をし返そうとしたら、さっきまで横にいた藤堂の姿が見当たらない。

何処に行ったのか視線を巡らせていると、

彼女が怪物のいる方へ既に向かっていることに気づいた。


『今の一瞬で、あの場所まで移動したのか』


いくら修復者の身体能力が強化されているとはいえ、

そのスピードにも限度がある。

彼女の移動速度は、その範疇を軽く越えているのは間違いなかった。


ただ、それでも怪物のレーザーが照射される方が速いのではないかと思う。


大砲の光が大きくなり、いよいよ火月のいる場所へ攻撃をするかと思いきや、

藤堂のスピードが更に上昇する。


速度を落とすことなく、大砲の目の前で大きくジャンプすると、

1メートル近い三つの鉤爪が、その右腕を捉えた。


振りかぶる形で大砲に直撃した鉤爪は、

怪物の照準を狂わせるには十分な威力を放っており、

自身の足元に右腕を向けた状態のまま、怪物がレーザーの照射を始める。


右足から右腕にかけて、一瞬で氷漬けになり、

氷の山のようなものが形成されていく。


その勢いは、火月が一番よくわかっていることだった。

まさか、自分の攻撃で身体の一部が氷漬けになるとは、

怪物も想定していなかっただろう。


「これで、少しは戦いやすくなるといいんですけど」

いつの間にか隣に戻ってきていた藤堂が一人呟く。


「一時的な移動速度の向上…か?」

彼女の懐中時計の能力について確認する。


「そうですね。

 能力の発動中は自由にスピードを変えられるので、結構使い勝手がいいんですよ。

 この武器のお陰で、それなりに威力のある攻撃もできますし」


右腕に装着されている鉤爪を「ガチャリ」と動かしながら、藤堂が静かに微笑んだ。

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