第60話 意地

まるで戦隊ヒーローが使う変形ロボットのように、

水晶の塊がゆっくりと形を変え始める。


それは、一言で言うなら水晶の化け物……

いや、ゴーレムと呼んだ方が適切だろうか、

いずれにせよ人の形をしたものへ変貌を遂げた。


頭部は透明な六角柱のような形で、てるてる坊主の怪物を連想させる。

肩には白いマントのようなものをまとっており、

ゆらゆらと大きく風に揺れていた。


右腕は筒状に真っすぐ伸びていて、巨大な大砲かと思うほどだ。

一方左腕はハンマーのような形をしており、

あれで潰されたら即死は免れないだろう。


重厚感のある両足は、所々に鉱石のような突起物があり、

うっすらと赤色に点灯している。


「火月よ、この怪物は…」


「ご想像通り、さっきまで俺たちが追いかけてた奴らだ」


「子供の成長はあっという間…とはよく言ったものじゃが、

 ここまで大きくなるとは夢にも思わなかったぞ」


「ああ…。自爆なら有難かったんだが、合体するとはな。

 ただ、これこそが、こいつの本来の姿なんだろう」


てるてる坊主の正体が、巨大な水晶の怪物が分裂した状態だとするなら、

今まで感じていた違和感にも合点がいく。


道理で手応えを感じないわけだ。


「どうやら、悠長に話をしている場合じゃ無いかもしれん」


怪物のハンマーのような左腕が、大きく振りかぶるのを確認すると、

回避のために直ぐに移動を始める。


程なくして、火月たちがいた場所にハンマーが振り下ろされると、

地割れを起こさんと思うほどの衝撃を感じた。


「あやつ、一撃の威力はが、

 動作は遅いようじゃから避ける時間は十分あるぞ」


怪物の攻撃パターンを知るため、振り下ろされるハンマーを何度も回避する。

やはり動きが遅い分、軌道を読みやすい。


怪物との距離が一定以上離れると、攻撃パターンに変化が起きた。


大砲のような右腕をこちらに向け、大きな結晶の塊を発射してきたのだ。

といっても、スピードが速いわけでも、連射性能に優れているわけでもないので、

これも火月達からしたら容易に避けることができた。


暫く回避を続けていると、ねぎしおが横から話しかけてくる。

「もうファーストペンギンとしての役割は果たしたのではないか?

 ある程度の情報は集まったと思うんじゃが…」


ねぎしおの言う通り、怪物の情報は十分得ることができていた。

このまま帰っても問題ない、むしろ普段通りの火月なら、

迷うことなく帰っていただろう。



……ただ、今回は会社の同期が関係している扉かもしれないのだ、


いくら副業でやっていることとはいえ、

数少ない知り合いが被害に遭っているのに、

どうして無関心でいられるだろうか。


出来ることなら自分の力で修復したい気持ちもあったが、

自分の力は自分が一番よく理解している。


だからこそ、ファーストペンギンとして少しでも多くの情報を手に入れたい…

そう強く考えていた火月だった。

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