第55話 廃墟

見上げれば、曇天の空。

足元には赤煉瓦の石畳が扇状に広がっている。


周りを見渡すと、石造りの家がぽつぽつと建っていたが、

その姿は原型を留めておらず、

廃墟もといゴーストタウンと呼んでも差し支えないだろう。


ほとんどの建物が石の壁一面だけを残した状態のため、

家と判断してもいいか怪しいところではあるが…。


「これはまた、随分寂れた場所に来たもんじゃな」

隣を歩くねぎしおがぽつりと呟く。


「怪物の気配はどうじゃ? 近くにいるなら直ぐに隠れるから早く言うんじゃぞ」


「今のところ、ヤバそうな気配は感じないな…」


散策がてら十分近くふらふらと歩いてみたが、

何かと遭遇することも無く、単に廃墟探索をしているような気分だった。


もしかして、今回の異界は怪物の排除が修復のトリガーじゃないのかもしれない…

そう思い始めた矢先に事が動き始める。


「ん? もしかして、あれは…」


火月の少し前をてくてくと歩いていたねぎしおが急に走り出した。

どうやら、斜め左前方にある廃墟の一画が目的地らしい。


何が起きるかわからない異界で、

ねぎしおが自ら積極的に動くなんて珍しいなと思ったが、

怪物の気配を感じなかったのでそのまま放置しておくことにした。


引き続き、周辺を一人で散策していると、左手から騒がしい声が聞こえてくる。


「おい、待つのじゃ! こそこそと逃げ回るなんて卑怯者がやることじゃぞ!」


『あいつ、一体何を見つけたんだ…』と気になったので

ねぎしおがいる方へ向かおうとすると

突如白いカーテンのような物体が目の前に姿を現す。


この至近距離でようやく怪物の気配を感じた火月は、瞬時に腰の短剣を引き抜き、

身体目掛けてその刃を突き刺した。


咄嗟の一撃。


何故、火月がそんな行動をとれたのか、答えは明白だ。


それは先ほど、

女の修復者が始末しただったからに他ならない。

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