第54話 同業者

なるべく音を立てないように後ろを振り返ると、

近くにいたねぎしおを抱え、走ってきた道を引き返し始める。


脇道から大通りに出て、暫く黙って歩いていると

痺れを切らしたねぎしおが口を開いた。


「先ほど怪物を始末したあの女、お主と同じ修復者ではないのか?」


「だろうな…」


「それなら、話しかけても良かったのではないか?

 情報交換とか扉の修復を手伝ってもらうとか色々メリットはあると思うんじゃが」


「どうだろう。お互い初対面で素性も知らない人間に対して、

 そこまで気を許せるとは思えん。

 それに、俺は副業のためにこの仕事をしているが、

 相手も同じとは限らない。修復者と一口に言っても、

 扉を修復する理由は人それぞれだ」


「うーむ…。我からすれば、お主はどうも物事を複雑に考え過ぎな気もするがの」

納得しかねるといった様子のねぎしおだった。


実を言うと、話しかけなかった…

いや、話しかけられなかった理由はもう一つあった。


それは、明確に言葉で説明できるようなものではなく、

単に『彼女に話しかけてはいけない』という直感のようなものを肌で感じたからだ。


迷いのない怪物への一撃、

それは自分に対して確かな自信が無ければできない芸当だ。


何より印象的だったのは、怪物を始末した時の様子。

あれはまるで…。



……



物思いにふけっていると、怪物が出てきた扉の前まで戻ってきていた。


「扉がまだ残っているようじゃな。

 つまり、あの怪物が修復のトリガーじゃなかったという解釈で良いか?」


「ああ。おそらく、本命の怪物がこの扉の先にいるはずだ」


「じゃったら、さっさとファーストペンギンとしての仕事を終わらせるがよい。

 もちろん、我に関係がありそうな情報収集も忘れずにな」


予想外のハプニングがあったものの、自分がやるべきことは変わらない。

静かに頷くと、一人と一羽がガラス製の扉の中へ消えていった。


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