第56話 四面楚歌

せぬ…」

淡い光となって消滅する怪物を見ながらねぎしおが言う。


「ああ…。何せ実界で始末されるのを、この目で見たんだからな」


「殺されたと見せかけて、実は生きていたのかもしれぬぞ」


あの怪物の能力について情報が無い以上、ねぎしおの指摘も一理あるなと思った。

ただ一つ分かっていることと言えば、

あいつがいた地面には必ず氷が張ることくらいだろう。

ほとんど浮遊して移動するから、今の今まで忘れていた。


「火月よ、短剣をずっと見つめているようじゃが、どうかしたのか?」


「ん? ああ…、大したことじゃないんだ。ただ、あまりにも手応えが無くてな」

怪物に自分の攻撃が当たったのか、今でも実感がない。

どちらかといえば、身体に触れた途端に消えたような気もする。


「そりゃあ、そうじゃろうな。

何たって我の強さにビビッて逃げるような輩じゃ、程度が知れるというものよ」


ふふんと鼻を鳴らし、自慢げに喋るねぎしおの話を

右から左に聞き流しながら思案する。


確かに、怪物の気配はほどんど感じなかった。

それこそ、ねぎしおに引けを取らないレベルだろう。


難易度二の扉であるのは間違いないが、

難易度一に近いパターンがあってもおかしな話じゃない。


今回はラッキーな扉だったとポジティブに考えてみてもいいのかもしれないな

と思った火月だったが、直ぐにその考えを改める。


「おい、気づいているか…」

如何に自分が凄いのかを演説していたねぎしおに声を掛ける。


「何じゃ、我の崇高さについて理解するには、まだ一時間以上の説明が必要じゃぞ」


話を遮られ不機嫌気味なねぎしおだったが、

火月の視線の先を追うと、

石造りの廃墟の隙間から好奇の視線のようなものを感じた。


「これは…、我も予想しておらんかったの」


いつの間にか、てるてる坊主のような怪物が、

火月たちを囲むようにして建物や崩れた壁の陰からこちらの様子を窺っている。


ざっと確認しただけでも、三十体近くはいるだろう。


数としては、圧倒的不利な状況に置かれていることを理解した火月は、

次にどう動くべきか考え始めるのだった。


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