第48話 現場

会社を出ると、念のため周囲を見渡す。


時間も時間なので、歓迎会帰りのメンバーと鉢合わせするのだけは

絶対に避けたかったからだ。


可能性は低いが、二次会なるものに誘われたら

今度こそ断り切れる自信が無い。


自分と同じように帰宅途中であろうスーツ姿の人間しか

周りにいないことを確認した火月は、

ほっと胸を撫で下ろすと駅の方へ歩みを進めた。


駅の中には入らずに、そのまま線路沿いを十五分ほど歩く。

…すると右手にドラッグストアが見えてきたので、そこを目印に左折する。

さらに五分ほど進むと事故があったとされる十字路に出た。


この時間にしては交通量が多い印象を受けたが、

特段、見通しが悪いような場所ではなかった。


ポケットに入っている懐中時計に意識を集中させると、

一番近くにあった信号機の横断歩道で、怪物の痕跡を見つけることができた。


病院で見つけたものと同じ気配を感じ、

今回の事故に怪物が関わっていたことを確信する。


ふと、アスファルトの路面を見ると、

黒い線のようなものが走っていることに気づく。


おそらく、車がスリップした時のタイヤ跡だろう。


怪物の出現により、何らかの影響を受け、制御を失った車が

偶然居合わせた北大路を巻き込んだ…というのが

今回の事故の真相のような気がした。


十字路をゆっくりと一周してみたが、

最初に見つけた痕跡以外は何も発見できなかったので、

そのまま扉の場所を探すことにする。


時計のナビに従い、十字路の道を西の方角に向かって百メートルほど直進すると、

左手に高さ三メートルはありそうな、白い壁のようなものが見えてくる。


壁沿いには細長いロープのような電飾がついていて、

赤い点滅を繰り返していた。


付近に『工事中』の看板が目に入る。

どうやら高層マンションを建設中らしく、その仮囲いのようだ。


時計のナビが終わり、

仮囲いの扉が目的の扉の場所であることを知った火月は、

いつものように静かに目を閉じる。


「我が契約を結びし、懐中時計よ。

 己が修復者の命に従い、実界と異界の境界を開け……」


懐中時計が強い光を放っていくのを感じ、白い光が夜の暗闇を包み込んだ。

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