第47話 処世術

パソコンのタスクバーに表示されているデジタル時計を確認すると、

時刻は午後九時を回っていた。


画面に集中して作業をしていたせいか、

目の疲れを感じたので、眼鏡を外して目薬を差す。


点眼後、目をパチパチさせるのは良くないと知ったのは、ここ数年の話だ。


いつものこの時間なら、

まだ同じチームのメンバーが残業をしているのも珍しくなかったが、

今日は火月だけが残っていた。


というのも、今日は業後に藤堂の歓迎会が予定されており、

メンバーは火月を除いて全員が数時間前に退社したからだ。


北大路の送別会も兼ねていた今回の歓迎会は、

事故のこともあり、一時は中止の声も上がっていた。


だが、事前にお店を予約してしまっていたことと、

チーム内の空気が少し重苦しいものになっていたこと、

そして、何より北大路が自分のせいで藤堂の歓迎会まで中止になるのは

絶対に嫌がるだろうなと思ったので、

それとなく上司に伝えたところ、そのまま実施する運びとなった。


いくら表面上は普段通りに見えても、

北大路の件に関して、皆何かしら思う部分はあったのではないかと思う。


なので、歓迎会という席を設けることで、

多少気持ちの整理が出来れば、それが一番だと考えた。


もし、事故の被害者が火月だったとしても、

北大路なら同じ判断を下すのではないかと思う。


歓迎会には火月も参加する意思を示していたが、

急ぎの仕事が入ったため、

今日の夕方に参加できなくなった旨をメンバーに伝えた。


もちろん、最初から参加するつもりなんて微塵も無かったのは言うまでもない。

最初から断ると印象が悪いので、急な仕事を理由にすれば角が立たないのだ。


荷物を手早く片づけると、静かに席を立ち、茶色の鞄を肩にかける。


火月にとって最優先でやるべき仕事…、

それは事故が起きた場所へ行き、怪物の痕跡を探すこと、

そして、扉の場所を特定することである。



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