第44話 病院

いつもより早い時間に仕事を切り上げると、

北大路が入院している病院へ向かうため、

駅のバスロータリーから市営のバスに乗り込む。


家族でもない人間が面会できるとは思えなかったが、

どうしても動かずにはいられなかった。


出発の時刻となり、運転手が車内アナウンスを始めると、

軽快な音と共にバスのドアが閉まる。


ふと車窓から外を眺めると、街路樹の百日紅サルスベリが桃色の花を咲かせていた。



……


思考を巡らせていたせいか、

気づいた時には病院前の停留所に到着しており、

急いでバスを降りる。


事前に調べた情報を基に、

本館棟と呼ばれる建物の正面出入り口を抜けると、

消毒液のような病院独特の匂いが鼻腔に広がる。


受付に立ち寄ることも考えたが、

面倒事になるのは避けたかったので、

そのままの館内のエレベーターを目指す。


北大路がいるフロアは分からなかったが、

病室は三階と四階にあるらしく、

壁に掛けてあるネームプレートを虱潰しらみつぶしに確認していけば見つかるだろう。


エレベーターのドアが開き、三階で降りる。


まるで目的地が最初から決まっているかのような足取りで、

北大路のプレートを探し始める火月だったが、

フロアをぐるっと一周しても病室を見つけることはできなかった。


直ぐに四階へ移動して、同じようにプレートを確認していく。


…もしかして、この病院じゃなかったのだろうかと一抹の不安を覚える。


そういえば、病院の案内図を確認した時に、

新館棟と呼ばれる建物が隣接していることを思い出した火月は、

そっちに北大路がいるのではないかと思い始めた。


残すは角の一部屋を確認するだけとなり、

新館棟への移動もいよいよかと半ば諦めかけたその時、

壁に北大路のネームプレートを発見した。


中に人の気配がなかったので、おそらく検査中か何かだろう。


とりあえず、北大路がこの病院に入院している事実は確認できたので、

また日を改めようと思い踵を返そうとした火月だったが、

病室の扉の床に違和感を感じ、直ぐに足を止める。


それは普通の人間には分からない、修復者でなければ見逃してしまうもの…

そう…怪物の僅かな気配と痕跡だった。

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