第43話 会話

どうやら事故があった場所は会社近くの交差点で、

時刻は昨日の十八時頃とのこと。


北大路が一人暮らしをしているマンションは、

会社から歩いて二十分圏内にあるので、

おそらく休日の外出中での事故だったのだろう。


結論から言うと目立った外傷は無いが、事故の衝撃で頭を打ってしまい、

今は昏睡状態が続いているらしい。

これから、脳の精密検査も予定されているそうだ。


軽い脳震盪のうしんとうで済めばいいが、北大路が目を覚ますまでは安心できないなと思う。


会議が終わるまでの間、何とも形容し難い感情が胸の中で渦巻いていた。


「北大路さんには仕事のことを凄く丁寧に教えてもらってたんですけど

 その中で、よく中道さんの話が出てたんです。

 あいつがいなかったら、きっと今まで仕事を続けられなかっただろうって…。

 中道さんと北大路さんは同期であり、親友なんですよね?」

確認するように藤堂が上目遣いで質問する。


「流石に親友と言えるほどのものではないですが、入社以来の腐れ縁でね。

 私も彼には何度も助けられてきたので、

 持ちつ持たれつの関係…と言った方がしっくりくるかもしれません」


「そうだったんですね。

 最終出社日も決まっていたのに、まさかこんなタイミングで事故に遭うなんて…」


人生、いつ何が起きるか分からない。

テレビで流れる交通事故のニュースは今まで何度も見てきた。

でも、心の何処かで自分には関係ない他人事だと思っていたのだ。


そう、まるで別の世界で起きている出来事のように…。


「北大路さんに以前、中道は感情を口に出すのが下手くそだから、

 何か溜め込んでいそうだったら気にかけてやってくれ

 ってお願いされたことがあったんです」


藤堂が火月の顔色を窺いながら話を続ける。


「…もしかして、それが理由で?」


「はい、声をかけさせて頂きました」


新しく入ってきたばかりの人間に、

そんなことを頼んでいたのか…と北大路のお節介振りに辟易する。

人の心配をするよりも、まずは自分の心配をしろと言ってやりたかった。


それにしても、その内容を俺に伝える藤堂も藤堂だ。

おそらく北大路も冗談半分で言ったに違いない。


その言葉を真に受けて、しかも本人に直接伝えるのは如何なものか。

単に生真面目なのか、それとも馬鹿正直なのか…よくわからない人だなと思った。


「多分、北大路も貴女に本気で私のことを気にかけてもらおう

 とは考えていなかったと思うので、忘れてもらって大丈夫ですよ。

 でも、お陰様で話をしていたら気持ちが少し落ち着いてきました。

 藤堂さんもあまり考え込まないようにして下さいね」


軽く会釈をすると、正面を向いて自席へ歩き始める。

何か言いたそうな顔をした藤堂が、離れていく火月の背中を凝然と見つめていた。

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