第42話 後輩

「中道さん。少しだけお時間大丈夫ですか?」


会議室から自席へ向かう途中、後ろから突然声をかけられた。


足を止めて振り返ると、そこにはブラウンカラーの髪を

後頭部で一つにまとめた所謂ポニーテールと呼ばれる髪型をした女性がいた。


くりっとした大きな目に綺麗に整えられた眉、ピンと伸びた背筋は、

さながら何処かの運動部にでも所属していたのかと思えるほどで、

快活な印象を受ける。


直ぐに名前が思い出せなかったので、相手の目をジッと見て記憶を辿っていると


「えーっと…。私のこと分かりませんか? 先月同じチームに配属された藤堂です」

視線を左右に動かし、気まずい表情で彼女が言う。


苗字を聞いて、ようやく頭の片隅にあった記憶が蘇る。


確か名前は…、藤堂とうどう 志穂しほ


一か月前に北大路が仕事を辞める宣言をしてから、

人員補充のため別のチームからやってきたのが彼女だった。


まだ入社して一年と言っていたので、

おそらく即戦力というよりも色々な案件に参加する意味合いで

うちのチームに来たのだろう。


比較的安定しているプロジェクトということもあり、

北大路が辞める前に彼の仕事振りについて

少しでも多くの社員に学ばせるのは悪くない判断だと思う。


そういえば以前、飲み込みが早い新人がいると話をしていたような気がするが、

もしかしたら彼女のことだったのかもしれない。


「あのー、中道さん。私の声聞こえてますか?」


不信感のある眼差しが向けられていることに気づく。


「すみません、少し考え事をしていました。藤堂さんですよね、覚えてますよ」

なるべく、忘れていたことが悟られないように応える。


「なら良かったんですけど…。

 それよりも、さっきの会議で思い詰めたような表情をされていたので、

 少し気になって話しかけちゃいました。

 やっぱり、北大路さんの件が原因ですか?」


顔に出さないように気をつけていたつもりだったが、

思っていた以上に動揺してしまったらしい。


北大路と同じで、彼女も周りをよく見ているタイプなのかもしれない。


「そうですね。あまりにも急な話だったので…」

と返事をすると、上司が話していた内容を思い出し始める火月だった。

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