第38話 衝突

大きな音と伴に地面に振動が伝わる。


先ほどまで火月たちが隠れていた場所に投げ込まれた倒木は

その原型を留めておらず、見るも無残な姿を晒していた。


逃げるのが少しでも遅れていたら直撃を受けていただろう。

やはり、怪物のパワーについては一番危険度が高いものと認識した方が良さそうだ。


「回避能力の向上…じゃと? そんな能力があってたまるか! 

 お主、我を襲った時は勇猛果敢に攻めてきたではないか!

 忘れたとは言わせないぞ!」

火月が怪物に関する情報を整理していると、ねぎしおが声を荒げながら言う。


「ああ…。あれは、単にお前が弱そうだったから排除できると踏んでの行動だ」


あの時は気が触れていたのだと今でも思う。

なんせ自分が攻めの行動をとるなんて今まで一度もなかったのだから。


「我に対する侮辱に関しては、今は目を瞑っておいてやろう。

 とにかく、あやつのことが排除できないなら

 さっさとここから立ち去るべきじゃ」


ねぎしおが急いで移動を始める。


行きの時とは違って、切り倒された木々が進行を妨げており、

入ってきた扉がある場所までの道のりを険しいものにしていた。


確かにあいつの言う通り、相手を倒す術がない以上この異界に長居は無用だった。


環境と怪物の見た目、おおよその能力についての情報は集まったし、

ファーストペンギンとして最低限の役割は果たせるはずだ。


時計の能力も予定より早く発動することになってしまったので、

残り時間を考慮するならこの辺が引き際だろう。


実界への帰還を決め、ねぎしおを追いかけようとしたら

不意に真横に大きな影が姿を現す。


顔を横に向けると、怪物の大きな顎が目前に迫ってきていた。



……


完全に油断した…。


飛んできた倒木にばかり意識が向いていて、

怪物が近くまで迫ってきていることに気づけなかった。


即座に姿勢を低くして怪物の攻撃をギリギリのところで避けたが、

直ぐに相手の左前脚が火月を切り裂こうと追撃をしてくる。


流石にこの体勢で回避するのは難しいと判断し、

右手で腰の短剣を一気に引き抜く。


怪物の爪と火月の短剣の刃が正面からぶつかり合い、

周りに激しい火花が飛び散った。

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