第37話 判明

時計の能力を発動して五分が経過した頃には、数えきれないほどの木が倒れ、

地上は足場の悪い複雑な地形へと変貌を遂げていた。


流石に移動できる木が残っていなかったので、

地上に降り立った火月は倒木の陰に隠れて相手の様子を窺う。


ひとしきり暴れまわったのか、怪物は空を向いて静かに佇んでいた。

それはまるで周りの音を鋭敏に感じ取ろうとしているようにも見える。


「火月よ…。もう怪物の観察は十分ではないのか?

 時計の力も時間制限があると言っておったじゃろう。さっさと片づけるが良い」

いつの間にか隣に戻ってきたねぎしおが、息を切らせながら言う。


「そうだな…。お前の言う通りあと五分がリミットだ」


「じゃったら、早く…」


「だが、お前は一つ勘違いをしているようだから言っておく」


「…?」ねぎしおが頭にクエスチョンマークを浮かべた。


「俺の力じゃ、この怪物を排除できない…。

 いや、そもそも排除することが目的じゃないんだ」


「お主、何を言っておるのだ?

 こやつを倒さない限り扉は修復されないんじゃろう?

 修復者の仕事は扉の修復ではないのか?」


「その通り、修復者の仕事は扉の修復だ。

 でも、俺の仕事は誰よりも先に扉の中に入り、

 扉の中と怪物に関する情報を持ち帰る

 謂わばファーストペンギンの役割が大きいってことだ」


「情報を持ち帰るファーストペンギン…じゃと?」

納得できない様子で言葉を繰り返すねぎしおを横目に、

怪物が耳を素早く動かして、こちらの方角を向いたのが見えた。


どうやら少し話し声が大きかったらしい。


怪物が再度咆哮を上げると近くの倒木を片手で持ち上げて、

火月たちのいる方へ投げ飛ばした。


ねぎしおの首を掴み、倒木が向かってくる前に大きく横にジャンプする。


「なら、お主の能力は一体何なのだ…?」

空中で移動している最中に、ねぎしおが疑問を投げかけてきた。


「そういえば、言ってなかったか。

 俺の時計の能力はだ。

 絶対に相手の攻撃を回避できるほど万能な力って訳じゃないが、

 この力のおかげでファーストペンギンの仕事ができているようなもんだ」

さも当たり前のように火月が応える。


それは、今の状況を打開するような、ねぎしおが期待していた能力とは

遥かにかけ離れていたものだったのは言うまでもない…。

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