第32話 エレベーター

隣駅まで電車で移動し、

改札を出て十五分ほど歩いた先にあったのは大きなデパートだった。


立体駐車場のある方角から扉の気配をより強く感じる。


薄暗い一階の駐車場の中を黙々と歩く火月の後ろから、

ちょこちょこと一羽の足音が続く。


天井の蛍光灯が消えかかっているエレベータホールへ着くと、

懐中時計のナビが終わり、ようやく目的の場所に着いたこと察する。


「ここが扉のある場所なのか?」


「ああ…。このエレベーターがそうだ」

目の前にある一基のエレベーターを顎で指す。


「我の時と違って、今回は扉らしい扉ではないんじゃな」

とねぎしおが不思議そうにしていたので

「空間の狭間にあるものならどんな形であろうが扉になり得るんだ。

 実界で必ずしも扉の形をしているわけじゃない」と答えておく。


ちょうど周りに人がいないので直ぐに準備を始めることにした火月は

静かに目を閉じ、まるでチャンネルを合わせるかのように

エレベーターへ意識を集中させる。


手に持っていた懐中時計が白い点滅を繰り返す。


「我が契約を結びし、懐中時計よ。

 己が修復者の命に従い、実界と異界の境界を開け……」


懐中時計がより強く光を放っていくのを感じ、白い光が火月たちを包み込んだ……。


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