第33話 その先へ

目の前に姿を現したのは錆びた鉄製の扉だった。


四隅の水晶玉は一つだけ紅色に点灯しており、

扉の一部には斜めの傷が深く入っている。


ひとまず、自分が対応できそうな難易度の扉であることを知れただけでも、

ここまでやってきた甲斐があった。


「この扉、傷が入っているようじゃが、ちゃんと中に入れるのか?」

ねぎしおが疑いの眼差しで、こちらを見る。


「問題ない。むしろこの状態が普通なんだ。

 修復者が修復するのは基本的に壊れた扉だからな。

 壊れた扉には必ず壊れた理由が存在する。

 だから、その原因を取り除いてやるのが俺たちの仕事だ。

 まぁ…極稀に壊れていない傷無しの扉が出現することもあるが、

 それは修復する必要があるのか無いのかすら分からない、

 謂わば予測不能の未知の扉ってことになる。

 お前がいた扉も傷無しだったのは覚えてるだろ?」

 

「うーむ…。こっちに来て直ぐに扉が消えてしまったから、

 うろ覚えではあるんじゃがな…」

 必死に頭の中の記憶を辿ろうとしている様子が窺えた。

 

「それにしても扉の中に入ること自体がギャンブルのようなものなのに、

 傷無しの扉になんてお主もよく入る気になったもんじゃな。

 そういう無計画なことをやるような人間には見えんぞ。

 どぢらかと言えば石橋を叩いて渡る…いや叩きまくって壊すタイプじゃろ」

 ねぎしおの指摘はあながち間違いでは無いので、

 沈黙を貫くことしかできなかった。


「…その時は少し気が向いただけだ」と短く答えると、鉄の扉をゆっくりと開ける。


「念のため、最後にもう一度聞くが本当に入るんだな?

 引き返すなら今の内だぞ」


「愚問じゃな」間髪入れずにねぎしおが返事をする。


これ以上は何も聞くまいと思った火月は、

開いた鉄の扉の中へ足を踏み入れた。


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