第30話 新たな扉

誰かに肩を叩かれたような気がしたので、静かに目を開ける。


周りを見渡すと映画館のような座席に一人で座っていることに気づく。


先ほどまで薄暗かった空間は日常の明るさを取り戻しており、

自分がプラネタリウムを見に来ていたことを思い出す。


時計を確認すると一時間近く時間が経過していた。


急いで席を立ち出口の方へ向かうと、

受付の女性と目が合ったので思わず会釈をする。


「あまりにも心地よさそうに眠られていたので、起こすのを躊躇ってしまいました」

と女性が口に手を当て、目を細めながら話しかけてきた。


「ご迷惑をおかけして、申し訳ございません…。

 次の投影時間のスケジュールに問題はないでしょうか?」

恥ずかしいところを見られてしまったと思い、顔が熱くなるのを感じる。


「次の投影は十四時からなので大丈夫ですよ。

 それよりも、日頃の疲れは取れましたか?」


「えっ…?」


まさか、そんなことを聞かれると思わなかったので聞き返してしまった。


寝ていた相手に対し、普通は注意するものではないだろうか。


上品に笑う彼女を見て

全てを見透かされているような、何とも言えない気持ちになった。


「そうですね…。自宅で眠る時とは比べ物にならないほど休めました」

と正直に答える。


「それは良かったです。それでは、お気をつけてお帰り下さいませ」

静かに頭を下げる彼女を見届けてから、下の階へ移動する。


喉が渇いていたのでエントランスにある自販機で飲み物を購入すると、

近くのベンチで一息ついた。


まだ起きたばかりなので夢見心地の状態だったが、

突如頭に稲妻が走ったような感覚を覚え、直ぐに意識が覚醒する。


特別距離が近いわけではないが、

自分の担当範囲内で扉が出現したことを察知した火月は、

片手に持っていた飲み物を一気に飲み干した。


空になった缶を捨て、ねぎしおが待つ図書館のフロアへ向かう。


少し休んだおかげか、いつもより身体が軽い。

これなら、毎週プラネタリウムに通うのも悪くないなと思った。

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