第29話 プラネタリウム
ノートにペンを走らせる音と本のページを捲る音だけが館内に響き渡る…。
一般人が怪物を認識できない以上
ねぎしおが受付のソファーで読書をすることは、
誰もいない空間でひとりでに本が動いていることを意味する。
流石にそんな状況を作り出すわけにはいかないので、
自習室の机のような個人スペースへ移動した。
ここなら、正面・左右に仕切りがあるので、
ある程度の人目を避けることができるだろう。
要望に沿って選んだ本を手渡すと
「読み応えがありそうな厚みの書物じゃな。これなら我も退屈せずに済みそうじゃ」
と早速本に夢中になっていた。
自分の読む本を探すため、再び本棚を物色していると
突然、館内放送が流れ始める。
どうやら、十分後に上の階でプラネタリウムの投影が開始されるらしい。
そういえば、子供の頃に数回見た程度で社会人になってからは
一度も足を運んでいないような気がする。
昔読んだ本を大人になってから読み返すと新しい発見があるように、
プラネタリウムも何か得るものがあるかもしれない。
自然と足が上の階へ向かっていた。
投影時間は四十分、料金は百円だったので直ぐに受付を済ませると、
なるべく端の座席に座り背もたれを倒した。
自分を含め六人程度の客しかいないようだったが、
程なくしてガイドの音声と共に薄暗かった空間が更にその暗さを増していく。
まだお昼前の時間だったにも関わらず、
いつの間にか天井には無数の星が輝いていた。
季節の星にまつわる神話の説明が始まると、
その心地よい音とリラックスした態勢が火月を眠りに誘う。
『なるほど…これは確かに子供の頃にはわからなかった新たな発見だ』
ぼんやりとした意識の中で一人納得すると、規則正しい小さな寝息を立て始める。
夜空には夏の大三角が煌々と映し出されていた。
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