第27話 気温

「…火月よ。一つ聞きたいことがあるんじゃが良いか?」


ベランダで洗濯物を干していると、ねぎしおの声が背中の方から聞こえる。


「どうした?

 朝飯は、さっき食べたばっかりだろ。

 組織で食べていたものと比べたら食い足りない量かもしれないが、我慢してくれ」


「飯についても言いたいことはあるんじゃが、今はそうではない」


「寝床についてなら心配ないぞ。

 俺は寝室があるから、お前はリビングのソファーを使ってくれ。

 寝心地は悪くないはずだ」


「いや、寝床についてでもないのじゃ…」


「…?」


「つまり…我が聞きたいのは、

 お主はこんな暑い部屋で毎日過ごしておるのかってことじゃ」


手の動きを止めて、後ろを振り返ると

網戸越しに汗をダラダラと流しているねぎしおがにいた。


平日はほどんど家にいないので、

寝る時くらいしか寝室のエアコンを使わないし、

休日も扉の修復を含めて外に出ることが多いので、

昼間から自宅のエアコンを使ったことがほとんどない。


今までは一人だったからあまり気にしていなかったが、

ねぎしおに指摘され、初めてこの時期のリビングの暑さを知る。


「寝室のエアコンを使っているから、

 暑い部屋で過ごしているわけじゃないが、

 リビングについては全く考えていなかった。

 この部屋の暑さは耐えられそうにないか?」


「そうじゃな…。

 水樹という女の店にいる時は気にならなかったんじゃが、

 この部屋でずっと生活しておったら、いずれ蒸し焼きになりそうじゃ…」


いつもの口調に元気が感じられないので、この暑さが相当いるようだった。今後のことを考えるなら、

エアコンを昼間からつけることも検討すべきだろうと思ったが、

自分が会社に行っている間もずっと自宅のエアコンをつけていた場合、

月の電気代が馬鹿にならないのではないかと不安になる。


いくら副業でお金が入るとはいえ、節約できる部分は節約しておきたい……


結論、なるべく寝る時以外はエアコンを使わないことに決めた。


とりあえず、休日の昼間は何処が涼める場所を探すことにして、

平日は最悪、アタルデセルに行ってもらえば暑さを凌げるはずだ。


「ここより涼しい場所を知ってるから、そこに行ってみるか」

お金がかかるからエアコンをつけたくないとは言えないので、

それとなく場所の移動を提案してみる。


「そうか…。とにかく涼しいところに行けるならどこでも良い。

 早く案内するのじゃ…」


飼育初日からこいつがスモークチキンになったら困るので、

残りの洗濯物を手早く干し終えた火月は、外出するための準備に取り掛かった。

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