第13話 帰還

車が大通りを走り抜ける音が微かに聞こる。

湿気を含んだジメジメとした空気を肌で感じ、実界こっちに戻ってきたことを理解する。


火月の真後ろにあった木製の扉は、その役目を終えたのか白い光と共に霧散した。

まさか一人で修復ができるとは思っていなかったので、本当に運が良かった。

今回の副業で得られる報酬を考慮すれば、

例え帰る時間が次の日になったとしても全く問題ない。


この不気味な廃ビルに長居する必要もないので、

さっさと最寄り駅まで向かおうとすると、突然後ろから声をかけられた。


「おい、お主! 何処へ行く気じゃ!」


後ろを振り返ると、先ほどの鶏がこちらを見ていた。


「お間、ついてきたのか……」と思わず言葉が零れる。


怪物が実界に姿を現すこと自体は珍しい話じゃない。


傷有りの扉なら異界から実界にやってきて、

色々と面倒を起こす例は過去に何度も見てきた。


ただ、こいつの場合は例外かもしれないが……。


このまま放置しておいても実害が出ることはほとんど無いだろうが、

怪物が実界に入ってきた時点で組織に情報が伝わるのは時間の問題だろう。


自分が怪物を意図的に連れてきたと勘違いされたら、

今後の活動に支障をきたすのは火を見るよりも明らかだった。


能力を使い切った今、どう処理すべきか思案していると


「お主、また良からぬことでも考えているのでは無かろうな?」

と言わんばかりに鶏が疑いの眼差しを向けてきた。


この鳥、意外に鋭いなと内心驚きつつ、妙案が頭に浮かんだので話しかける。


「このまま置いていくのも気が引けるから、ついて来いよ。

 さっきのお詫びってわけじゃないが、安全な場所に連れてってやる。

 俺を信じるかどうかはお前次第だがな」


前を向き、暗い路地を歩き始めると、後ろからちょこちょこと足音が聞こえてくる。


ふと夜空を見上げると、電柱の街灯がチカチカと点滅を繰り返していた。

その姿はまるで、今の自分のようで妙な親近感が湧いた。


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