第12話 修復

突如、地面がぐらりと揺れて体勢が崩れる。


何事かと思い慌てて周囲を見渡すと、入ってきた扉の方から床や壁面が崩れ、

砂埃すなぼこりのように消え去っていく様子が視界に映る。


まだ修復が終わっていないのに、何故崩壊が始まったのか謎だったが、

数メートル先に新たな扉が姿を現したことに気づいた火月は、

既にこの異界の修復が完了していたことを理解する。


てっきり、鶏を始末することが修復条件だと思っていたが、

どうやら違ったらしい。


先ほどまで左腕に抱えていた鶏の姿は既に無く、

警戒心をむき出しで箱の中からこちらを睨んでいた。


「扉の修復が終わっているなら、もうお前に用はない。

 怖がらせて悪かったな」


先ほどまで右手に握っていた短剣は、その姿を懐中時計に戻しており、

能力のタイムリミットが来たことで、身体中を一気に倦怠感が襲ってくる。


なんとか足を前に動かして出口の扉の方へ向かおうとすると、

鶏が恐る恐る話しかけてきた。


「いっ、一体……何が起こっておるのだ?」


その質問は、先ほどまでの火月の行動に対してなのか、

それともこの広間の崩壊に関してなのか判別できなかったが、

正直どちらでも良かった。


「目の前で起きていることが全てだ。

 ただ、ここに残っていたら先は無いってことだけは断言できる」


「き、貴様! このまま我を置いていくつもりか!」


鶏が何か騒いでいるようだったが、これ以上会話を続ける気にはなれなかった。


鉛のように重くなった足を引きずって、ようやく出口の扉の前に到着する。

地面の揺れが激しさを増し、

崩壊の範囲が直ぐ近くにまで迫ってきていることを察した火月は

そのまま扉の中へ姿を消した。

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