第6話 予感
ふと顔を上げると、自席の島を除いてフロアの電気が全て消えていることに気づく。おそらく会社に残っているのは自分一人だけだろう。
思ったよりも集中して作業をしていたせいか、
背中を仰け反るようにして腕を伸ばすとポキポキと関節が鳴った。
仕事が忙しいわけではなかったが、遅くまで残業していたのには理由があった。
第六感とでも言うのだろうか、
何かが起きる予感のようなものを薄々感じていたからだ。
近くの窓から外の景色を眺めていると、
突然脳内に電流が走ったような感覚を覚える。
「開いたか……。場所は……思ったよりも近そうだ」
誰もいない社内で一人呟いた火月は
デスクの上に散らばった資料を片付け、パソコンの電源を落とした。
フロアの電気が全て消えたことを確認すると、
非常口の誘導灯を頼りにエレベーターホールへと足を進める。
下行きのボタンを押し、ポケットにしまってある紅葉色の懐中時計を取り出す。
時計は正確な時間を刻んでいなかった。
長針、短針、秒針が重なるように同じ時刻を指したまま静止しているその姿は、
まるで特定の場所を示す方位磁針のようだ。
登ってきたエレベーターに乗り、一階のエントランスを抜ける。
青白く光る懐中時計の針が駅とは真逆の方角を指す。
今日中に帰宅するのは難しそうだなと思いつつ、
一人のサラリーマンが寝静まったオフィス街に消えていった。
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