第7話 扉
目的の場所に到着するまで、そう時間はかからなかった。
大通りに沿って歩いていたと思ったら、
途中でビルとビルの間を抜けるような道を辿り、
最終的には『テナント募集中』と張り紙がしてある廃ビルの目の前に立っていた。
どう見ても心霊スポットにしか見えないその風貌に正直面食らったが、
きっと時間が遅いせいだと自分を納得させた火月はビルの扉の前に移動する。
静かに目を閉じて、まるでチャンネルを合わせるかのように扉に意識を集中させる。手に持っていた懐中時計が扉と呼応するように白い点滅を繰り返す。
「我が契約を結びし、懐中時計よ。
己が修復者の命に従い、実界と異界の境界を開け……」
頭に浮かんできた言葉が自然と口から零れる。
懐中時計がより強く光を放っていくのを感じ、
白い光が一瞬で周りを包み込んだ……。
ゆっくりと目を開けると、さっきまで目の前にあったシンプルな扉は様相を変え、
焦茶色の両開き扉へと変貌を遂げていた。
木製に見える扉の四隅には大きな水晶玉が装飾されており、全て真紅に輝いていた。
今まで見たことがない状態の扉と紅い水晶の数に驚いた火月は思わず息を呑む。
扉を開けるべきか否か一瞬迷ったが、
今月既に金欠気味の火月にとって、開ける以外の選択肢は残されていなかった。
意を決してゆっくりと扉を開ける。
中は先が見通せない程白い靄がかかっており、
何があるかは自分で入って確かめるしかなさそうだ。
「鬼が出るか蛇が出るか……」
普段ならハイリスクな行動は絶対に控える主義だが、
何故か今は自分の思考が楽観的になっていることに気づく。
なんとかファーストペンギンとしての
異界の中へ足を踏み入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます