第4話 帰路
駅の改札を抜け、階段を一段ずつ降りていく。
真っ暗な夜空を見上げると三日月が薄い雲に隠れていたが、
街灯の少ない夜道を照らすには十分な明るさを放っていた。
ゆっくりと自宅への歩みを進めながら数十分前の北大路とのやり取りを思い出す。
「同じ失敗を繰り返さないためにできることは、行動を起こすことか……」
行動を起こしたからといって、絶対に失敗しないとは限らない。
それは今までの人生経験から学んだことの一つだ。
もちろん失敗から学び、成功するまで行動を続けることができれば
それがベストなのだろう。
失敗し続けてもなお、何度も立ち上がる人は本当に凄いと思う。
北大路はまさにこのタイプだ。
でも、誰もが行動を続けられるとは限らない。
失敗を繰り返すと心のエネルギーのようなものが擦り減り、
何も動けなくなってしまう人間も存在する。
少なくとも自分はこのタイプだ。
多くの人が前者を善とし、後者を悪と考えるだろう。
実際その通りだと思う。
自分がどう思っていようが関係ない、社会からはそう判断される。
前者と後者のタイプ、どちらがあっても良いとはならない。
現代社会は『区別』という名の果実が大好物なのだ。
横断歩道を渡ろうとしたが、ちょうど信号が点滅し始めたので歩みを止める。
周りを見渡すと、
疲れたような顔をして信号待ちをしているスーツ姿の人間が何人かいた。
傍から見たら自分もその内の一人なのだろう。
ポケットに手を突っ込んで懐中時計を取り出す。
あと少しで日付が変わりそうな時間であることを確認し、ぼんやりと空を仰ぐ。
頭上に広がる黒のカーテンには、薄い雲を脱ぎ去った三日月が
まるで笑っているかのように煌々と輝いていた。
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