第五話
「1666(シックスティーンシックスティシックス)」
堀川士朗
第五話 梵(ぼん)
宿場町、梵に到着した間垣富三一行。
曳き車『玄武』を駐車場に置いて、町をうろつく。
梵は全域で禁酒令が出ていた。
「何だこの町は。禁酒令だとよ。味けねえ町だな」
「全くだ。糞ころなじゃあるめえし」
間垣と祖土がつまらなそうな顔で呟く。
間垣は一文銭をぴぃぃぃんと指で弾いて掌で蓋をした。
表か裏か。
今日の予定はこれで決まる。
酒の匂いを求め、敢えてあやしげな裏町を歩く事にした。
裏町の客引きが間垣一行を手招きして誘った。
「旦那さん旦那さん。今なら大層美味しいお酒とお料理をご用意出来ますがね。大きな声じゃ言えませんが、ここでしか飲めないですよ~。こっから近い宿です」
「応。良いな。兎に角、吾はどぶろくでもすみろくでもこんころもちが落ち着く滅法旨い旨酒が飲めりゃあそれで気が済むんだぃ。ちくと案内して呉れ」
元来あるちゅうの間垣富三。
いつも携帯している『珍なるとっくり』(ぺっとぼとる)の中の酒もカラだ。
手が震えているのを殊更に強調している。
それほどまでに酒が飲みたいのは、いやむしろ人間の情けであった。
「左様で。はいふろんと、ふろんと、お客様六名様ご案内~!」
客引きはへっどせっとの無線でどこかに連絡していた。多分、宿だろう。
ジッテ屋。
その宿は中毒人が経営していた。
中毒人のカッポジッテさん。
宿の店主みずから玄関口で間垣ら一行を出迎えた。
「いらっしゃいマーシー!いらっしゃいマーシー!アイヤ~団体さんアル。嬉しい嬉しいネ。わたしこの宿の主人、カッポジッテさん四十五歳アル。よろしくドーゾーありがとう」
カッポジッテさんはぺっとのあるまじろを胸に抱き抱えている。
「カッポジッテさん、酒が置いてあると聞いたんだが」
「アルよ~アルアル~。世界中の酒を取り揃えてアルアル。アルこおる!」
「よしみんな。目的地の天外も近い。今宵は派手にどんちゃん騒ぎと行こうぜ!」
「待ってました旦那!よっ!征夷大将軍!」
「祖土、おめえは用心棒と云うより太鼓持ちだなぁ」
「へっへへ」
「いらっしゃいマーシー!いらっしゃいマーシー!」
銅鑼(どら)が鳴る。
広いろびぃにはすまぁとぼぅるの台が置いてある。
一げいむ五文。
間垣はそれをちらりと見て少しやりたそうだった。
娘たちは間垣から五文ずつ小遣いを貰い、ここでちょいと遊んでから風呂に入った。
間垣から三十丈離れると炸裂する黒い首輪は完全防水加工が施されている。
風呂も平気だ。
その頃、間垣は美奈と一緒に男風呂でいちゃいちゃしていた。
湯気で互いの顔がよく見えないほどだ。
美奈は照れながら糠袋で大事なところをごしごしと洗って湯で流している。
「ふう。湯加減も丁度良いな。ほら、美奈。もっとこっちへ寄ってござんな」
間垣は美奈の手を取り浴槽に誘った。
いちゃいちゃぱらだいす。
案の定、その様子を覗き見しているのは祖土利一である。
性癖がおかしい。
晩の食事には伊勢海老のふるこおすが出された。
伊勢海老のちりそおす炒めも出た。
酒も美味い。
みな、美味しい美味しいと言って食べている。
間垣はお代わりをしている。
ぱかぱかと飯と酒が進む。
だがしばらくすると、身体が痺れてきた。
「こいつは一体……?」
カッポジッテさんが部屋に現れた。
「フフ。痺れ薬が効いてきたアルね。この娘たちはうちの従業員にさせて貰うアルよ。せくしいこんぱにおんにするアル!男二人は邪魔だから消えて貰うアルね!」
「何だと?小癪な!」
間垣は六連発のりぼるばあに改造されたふりんとろっくぴすとぉるを帯のほるすたぁから抜いた。元込め式である。
カッポジッテさんに向けて撃つが、全て抱き抱えられたあるまじろの硬い甲羅に跳ね返されてしまう。
素早く九みりぱらべらむ弾を装填し、再び射撃する。
またもやあるまじろに跳ね返された。
また素早く九みりぱらべらむ弾を装填し、再び射撃する。
またまたあるまじろに跳ね返された。
またまた素早く九みりぱらべらむ弾を装填し、再び射撃する。
またまたまたあるまじろに跳ね返された。
「しつこいアル」
「もぉー!何だよそのあるまじろっ!」
間垣が苛立って怒鳴る。
カッポジッテさんは嗤っている。
「フフン。無駄アル無駄アル」
「ち。弾切れだ」
腹の具合がこの間から悪く、食事に手をつけていなかった祖土だけが痺れから免れて刀を抜いた。
「天然痘流地擦りの剣、斜の太刀!」
祖土利一はそう叫ぶと、斜め下からカッポジッテさんの急所を切り裂いた。
ずどっ!
……ぽろりんこ。
間。
「アイヤ~。きゃーあ!アタイ女の子になってしまったアル。ひどいひどいアル。いやん。ごめんなさいアル。あふん。もう娘たちはいらないザマスアルから帰ってくれアル~!あっふ~ん!まいっちんぐアル!」
突如、ぴや~とかぷお~とかのむうでぃな曲が鳴ってカッポジッテさんはくねくねとべりいだんすを踊り始めた。
誰も見ていなかった。
「あぶねえとこだったな。助かったよ祖土」
「こういう時の俺だ。こんなあぶねえ宿場町はさっさとおさらばしようぜ旦那」
「うん。いや、すまぁとぼぅるやってからにしよう」
「え」
つづく
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