第三話
「1666(シックスティーンシックスティシックス)」
堀川士朗
第三話 圧河(あつかわ)
圧河に到着した。
海辺の宿場町。
夏真っ盛り。
浜に曳き車『玄武』を停めて、さまあばけいしょんする事にした間垣富三の一行。
『をどあける』の娘たちは各々間垣が用意したまいくろびきにの水着に着替えて波打ち際ではしゃいでいる。
肥前はむちむちとしている。
吉初はちっぱい。
少女たちの二の腕に捺された、『をどあける』の証である丸に『を』の字の焼き印が太陽の光と波しぶきを浴びて艶かしく輝いている。
娘たちの首輪が炸裂しないように三十丈以内の距離にいる間垣富三はぱらそるの下でお気に入りの娘、美奈の背中にさんおいるを塗っている。
手つきがいやらしい。
さまあばけいしょん。
いちゃいちゃぱらだいす。
「おうい、もうそろそろあがるぞ」
娘たちが浜辺に集まる。
肥前の肌に昆布がまとわりついている。
間垣は苛立っている。
「その昆布取れよ肥前」
「後で食うだ」
「馬鹿かおめえは」
「うめえだ」
砂を洗い落とし、圧河の町へと入る。
港町なので魚介類を商う店も多く、用心棒の祖土利一は試食用の酸味のきつい鯵の干物を美味そうにつまみ食いしていた。
肥前は先ほど自分に貼り付いていた昆布をもぐもぐと食べている。
その時、賊が町を襲った。
賊の襲撃。
「きゃあああああ」
馬で美奈と吉初をさらっていった。
二人は隙をつかれ本当にあっけなく捕らえられた。
逃走する賊の馬。
「まずい!首輪が炸裂しちまう!」
間垣は玄武に残った娘たちを全員乗せて急いで賊の馬の跡を追った。
山の中に屋敷が見える。
賊の根城だ。
もう、半刻ほど経っていた。
外からは中の様子が分からない。
強行突破すべきか。
間垣富三は悩んでいた。
祖土はやる気満々である。
屋敷に向けて玄武のすぴいかあで声をかける間垣。
「おい!賊め!お前らは何者だ?娘を返せ!」
すると屋敷から一際大きな男が一人出てきた。
その人こそ誰あろう、抗禁賊の頭領、梅梅禁。
身の丈六尺五寸を超す大男だ。
虎柄の着物姿で腰に毛で覆われた太刀を差している。
「ウラ!おれの名前は梅梅禁。抗禁賊の頭だ!」
間垣は玄武から降車して、六連発のりぼるばあに改造されたふりんとろっくぴすとぉるをほるすたぁから抜いた。元込め式である。
だが、躊躇が見られる。
祖土はもう刀を抜いていた。
わらわらと出てくる抗禁賊の面々。
祖土が本気を出せば、抗禁賊の十人や二十人、あっという間にあの世行きだろう。
屋敷の庭には中毒国製の八十式戦車も停まっていて、その狂暴な砲塔を玄武にぎらぎらと向けていた。
大緊張が走る。
間垣が刺激しないよう梅梅禁に赤ん坊をあやすように柔らかな声で話しかける。
「なあおい梅梅禁。話は分かって呉れると思う。二人を返して呉れねえか?」
「一人の女は肉にして食った。ンまかった。脳みそのしゃあべっとが格別ンまかった。もう一人の方も肉にして食ってやるー!ウラー!」
「そいつはやめてくンねえか。闘う事になる。お互い血は見たくねえだろ?」
屋敷から美奈が出てきた。
どうやら食われたのは吉初の方だったらしい。
美奈が「助けて富三さーん♥️」と恐怖にかられた声で泣き叫んでいたので間垣富三は軽く甘勃起した。
「美奈!待ってろよ」
「んー。ウラウラ。分かった。即断即決!もう一人は返してやる。今日は( ゚Д゚)ウマーな肉も食って気分が良い。ウラウラ!食った肉の女の代金を三両二分呉れてやる。ウラ!」
「安い。それじゃチェダ屋的に見ても赤字だ」
「ウラ!即断即決!ならば七両二分呉れてやる」
「梅梅禁は聞き分けが良いな」
「ウラ!おれ良い奴。梅梅禁はすっごくとっても良い奴!賊の優等生~!ほめろ。もっとほめろ。ウラ!ウラウラウラウラ~!」
「おい間垣の旦那、良いのかい?こっちは荷の女を一人殺られちまったんだぜ」
「ウラ!」
「ま。食われちまったもんはしょうがねえよ祖土。それに吉初はワキガだったからな」
「ウラ!」
「味見したのかい?」
「ああ。不味かった」
「そうけ」
「ウラ!」
「可愛い可愛い美奈が残りゃあ吾としてはそれで良いんだ」
「ウラ!」
「そんなもんかい」
「このーもっとほめろ。ウラ!おれ梅梅禁!ウラ~!梅梅禁はすっごくとっても良い奴~!賊の優等生~!」
間垣は梅梅禁から吉初の代金七両二分を受け取り、抗禁賊の屋敷を後にした。
間垣は一文銭をぴぃぃぃんと指で弾いて掌で蓋をした。
表か裏か。
今日の予定はこれで決まる。
圧河の町に戻る。
「洋麺屋『蒼の巣窟』があるぜ。ここでぱすたでもたぐっていこうぜ」
「ぱすた?間垣の旦那、そりゃあ何だい?」
「ばてれんの麺だ。固い蕎麦のようなものだよ。箸じゃなくふぉうくで食うんだ。歯応えがあって、( ゚Д゚)ウマーだよ」
「旦那は変わったモンも食うんだね」
「ああよ。吾は食通だからな」
洋麺屋『蒼の巣窟』の店主。ろをま出身のしぇふ、ジュゼッペ・トラットーリオは南蛮船で海を渡りヒノモトに留学。そのままここ圧河に店を開いた。
「団体サーンイラッシャ~イ。腕ニヨリヲ振ルウヨ~。リビアーモ、リビアーモ!」
雲丹のぱすたやまるがりいたぴっつぁあが供された。
食って飲んで、大満足の面々。
肥前は口元を汚しながら、ぴっつぁあ二枚を平らげた。
祖土利一がトラットーリオに質問した。
「あの~。これ食うと傷が治ったり、からだの悪いところが良くなったりとかは……」
「ナイデス。番組ガ違ウ」
間垣富三が帯を緩めて言った。
げっぷをしながら。
「ンげふ。ンまかったよ。さすがは、ろをまの本場の味だ!」
「オー。アリガット・ゴゼーマス!気二入ッテモラエッテ私ハテェーヘンウレシイダーヨー。グラッツェミッレ!アリガート」
トラットーリオが人懐っこい笑顔でみんなに語りかける。
なごむ一座。
間垣はこの青年しぇふが好きになった。
余談だがトラットーリオは来年の春に牛に頭を噛まれてあっけなく死ぬ。
つづく
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