クライアント 古四季陽世子 13
いちごと僕、そして陽世子とその父デュークはラウンジルームの大きな丸テーブルを囲み座っていた。
「陽世子、全く、何てことをしでかしたのだ?」デュークは陽世子をたしなめる。
「そちらの娘さんから電話が来たときは心臓が止まるかと思ったぞ」
「ごめんね、ひよこちゃん。私、勝手にひよこちゃんの携帯でパパに電話して何がどうなってるか全部話ちゃった」いちごは眉をよせて陽世子の顔色をうかがうようにして言った。
「うん、ありがとう。むしろありがとうだ。私は今パパに会っておかなければならないところだったのだ」陽世子は伏し目がちに、少しすねたような声で言う。
「どうした? 陽世子」
「パパ、今までありがとう。私はあと十五分ほどであなたとお別れなのだ」
「何がどうしたか、説明してみなさい」
「私は呪いのダイヤの悪霊と賭けをしている。ダイヤのそれは私にクイズを出した。その答えがどうしても見つからないのだ」
デュークの眉がピクリと動いた。
「どんなクイズなのかね?」
「ダイヤの力だ。アレは作用と言っていたかな? ダイヤが所有者に及ぼす二つの作用だ。一つは七日以内の死。そして肝心のクイズは、『もう一つの作用とは何か?』だ」
デュークはため息をついて目線をテーブル上に落とし、片手で眉毛を掻いた。そして髪の毛を掻き上げて言う。
「ダイヤの呪いを受けながらも、七日間を生きのびた者は、願いが一つ叶えられる。だ——」
「そ、それが答えなのか? パパ?」デュークの一言に陽世子を初め、我々は息を呑んだ。
「そうだ。間違いない」デュークは確信を持った様子で言い切った。
「願いが叶えられる?」僕はかなり驚いた。そんなディールを結んじゃうのか? やり手の悪魔は——。
「何故だ? 何故パパがそれを知っている!」立ち上がって陽世子が言う。——やっぱりママの死はパパが原因なのか? おそらく陽世子はそう思っているのだろう。
「落ち着きなさい陽世子」デュークはそういうと強い強い
「私はまだ二十代の学生だったころ、当時住んでいた町の蚤の市で古い書類棚を買った。その町の歴史ある修道院で使われていた物だ」
「私はそれを部屋に持ち帰ってホコリを払っていたところ、その引き出しに二重底を見つけた。中には一通の手紙が隠させていたのだ。日付は当時からおよそ百数十年前の物だった。中央のカトリック教会からその修道院への手紙だ」
「その手紙にはこうあった」
「世間を騒がせているイヤリー王国の赤いダイヤモンドにまつわる秘密に関して」
「そのダイヤは所有した者が七日のうちに事故死する恐ろしい呪いがかけられている。しかしながら同時に、先の呪いと対をなすもう一つの力があると噂されている。それは、『その呪いを受けながらも、死の七日間を生きのびた者には、褒美として一つの願いが叶えられる』——だった」
「教会はダイヤに第二の力があると言う情報を封印するよう、所属の教会や修道院に要請したのだ。願いを叶えるためにこの死のダイヤを手に入れようとする
「そうして教会の思惑どおり、その秘密は闇に葬られた。私もその秘密は心にしまって他言しなかった。何年もの間だ」
「——のちに、私はお前のママのミル子と結婚した。そして生まれたのが、陽世子、お前だよ。しかし悲しいことにまだ幼かったお前に将来はなかったのだ」デュークはここで一旦言葉を切った。そして——
「陽世子は幼い頃、重い病気に苦しめられていた。おそらくお前は憶えていないだろう。医者にも見放されていたのだ。医者はお前の命は五歳までもたないと診断していた」デュークの大きな瞳は陽世子をじっと見つめている。それは愛情あふれる目だった。
「重病だったことは知っているが、そんな余命宣告をされていたとは知らなかった——」
「私はお前のママと相談した。陽世子を生きながらえさせる方法が一つあるとな——」
「私とお前のママは『怪盗デューク』と言うチーム名でそのダイヤを盗み出したのだ。予告状にチーム名を明記してそれを博物館と警察署に送りつけてな」
「ちょ、ちょっと待って! 『怪盗デューク』はパパだけじゃなく、ママもそうだったの?」陽世子は大いに驚いた様子だった。
デュークは我が娘、陽世子の口から『怪盗デューク』という単語が飛び出したとき、ちょっと意外そうに眉を動かして陽世子を見つめ直した。——なぜその名を知っているのだ? と言った感じだ。陽世子が怪盗デュークの大ファンなのを知らなかったのだろう。
「もともと『怪盗デューク』とは私とミル子の二人組のチーム名、ユニット名だ。私達は協力しあって一つの人格の怪盗を演じて世間を騒がせていたのだ。一人では不可能なトリックも多用してな」もう隠す必要もないといった様子でタネ明かしをするデューク。
「そうか——つまり、ここで重要なのは予告状を使ってダイヤの新たな所有者を
悪魔との契約書には時としてこうした抜け穴が存在するのだ。おそらく陽世子の両親は無意識にそこを突いたのだろう。
「私とミル子は、どちらかが死んでもどちらかが生き残れば陽世子の命が救えると考えたのだ。もちろん理想は二人で生き延びることだったがね——」
「我々のサバイバルが始まった」
「しかし、ダイヤの呪いは私達が想像していた以上に強力だった。そして四日目——」
「ママが死んだ——」陽世子が悲痛な表情でつぶやいた。
「私は苦しんだ。私ひとりが生き残ったのだ。ママの犠牲でお前は命と健康を手に入れたのだ」
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