第41話

 使用人には気をつけるように言われてたのに、わたしが出した結論は使用人を上手に使えるようになるというものだった。

 理玖さんはわたしの決意を聞いて首を傾げた。


「どうしてそういう話になったの? カーサに何か言われたの?」


理玖さんはわたしの考えの後ろにカーサがいると思ったようだ。確かにカーサに言われたからだけどそれだけではない。わたしもそう思ったのだから、カーサは関係ない。


「カーサに言われたからじゃないの。わたしが自分で考えたのよ。このままでは理玖さんに迷惑ばかりかけてしまう。使用人に気をつけるのも、上手に使うのも同じ事だと思うの。使用人のことを把握していないと気をつけようがないもの」


 使用人を見張っていても、それは疑っているだけでわたしにも使用人にも良くないことだと思う。だからわたしは使用人を監視したりはしない。観察するだけだ。そして使用人を上手に使えるようになるのだ。誰にどの仕事を任せるのがいいか、暇している人はいないのか少しずつでも把握していけばきっといろんなものが見えてくるはず。


「うーん、茉里はそんなことはしなくていいんだよ。この屋敷の使用人は優秀なものばかりだから任せていても大丈夫なんだ。私は独身だったから女主人の仕事はできないから、できる人間を雇ったんだ。だから気にしなくていいんだよ」


 理玖さんはわたしに優しいから、仕事をして欲しくないようだ。でもそれではいつまでたっても奥様にはなれない。わたしが使用人に本心から奥様と呼ばれるためには今のままでは絶対に駄目なんだと思う。そしてカーサはわたしにそれを指摘してくれた。カーサはわたしがハダカの王様にならないように導いてくれているのだと思う。


「でも、わたしは理玖さんが第2夫人をもらうとか言って欲しくないの。わがままだってわかっているけど、理玖さんがもし第二夫人をもらったらわたしは領地に追いやられて理玖さんとは年に数回しか会えなくなるような気がするの。だから理玖さんがもし第二夫人をもらってもわたしの方が王都に残れるように頑張るわ」


「ちょ、ちょっと待ってくれ。その第二夫人をってなんだ? どうして私が第二夫人をもらう話が出てる? それに君が領地に追いやられるとか…あり得ない話ばかりじゃないか」


 理玖さんはびっくりしたようだけど、あり得ない話ではない。今は新婚だからそういう話にならないだけだ。理玖さんのように地位も財産もある男は第二夫人も第三夫人もいるのが当たり前なのだから。


「理玖さんはあり得ないっていうけどよくある話です。わたしがこの間読んだ本でも、第一夫人がいじめられて大変…」


 わたしが最近読んだ本の話をしていたら、途中で遮られた。話が長くなると思われたみたい。ここからが面白くなるのに……。


「それは物語だろう。私の両親を見たらわかるように、地位も財産があっても一人だけしか妻がいない者もいる」


公爵夫妻の仲の良さは有名だ。あの間に入れる女はいないだろう。でも公爵夫妻とわたしたちはまるで違うから、対象にはならない。


「確かにお二人は素晴らしいわ。でもお義母様に聞いた話では恋愛結婚でしょ? わたしたちとはあまりにも違うわ。それにお義母様は完璧ですもの。わたしが何もできないままではきっと第二夫人をって話になると思うの。だから今のままでは駄目なのよ」


「ん? もしかして君は私に第二夫人をもらって欲しくないから頑張るってことなのか?」


何故か嬉しそうな声だ。理玖さんの頭の中はわたしにはわからない。


「あら? そういうことになるのかしら」


 あまり深く考えていなかったけど、第二夫人の存在を想像した時から使用人を上手に使えるようにならないって思ったから、そうなのかも。


「そうかぁ。嫉妬してくれたってことなのか」


理玖さんはとんでもないことを嬉しそうな顔で呟く。


「し、嫉妬? 嫉妬とは違うと思うわ」


そうよ、これは嫉妬じゃないわ。理玖さんってやっぱり変だと思う。


「いや、どう考えても嫉妬だよ。私に第二夫人をもらうつもりは全くないから安心して。私の妻は茉里だけだ」


 理玖さんの機嫌がとても良さそうなので、嫉妬についてはこれ以上言い合わないことにした。

そして理玖さんの機嫌がいいのを利用してわたしが使用人を上手に使うことも了承してもらった。もちろんわたし一人では無理なので、カーサに教えてもらうことになる。それでも少しずつ成長していることが嬉しくてたまらない。

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