第27話 理玖side
ひとりにするのではなかった。せめてカーサが付いていれば茉里を悲しませることにならなかった。茉里が実家で疎まれていることは知っていたが、母親にあれほど憎まれているとは。しかもどうやら身代わりで憎まれているようだ。彼女の母親に妹がいたことは初めて知った。
私はそこまで調べていなかったが両親は徹底的に調べているはずだから何か知っているのではないか聞くことにした。
挨拶を済ませ、茉里が来られなくなった経緯を話すと母は悲しげな表情になった。
「そうなの。桜庭夫人には困ったものね。姉との確執を娘にぶつけるなんて…」
「それでは茉里には伯母さんがいるのですね」
「いたというべきでしょう。水野透子と言いました。彼女はもうずっと前に亡くなっています。茉里さんとそっくりだったそうです。ただ性格はまるで違い、どちらかというと愛莉さんに似ていたようです。おそらくですが愛莉さんと同じで魅了の瞳を持っていたのではないかしら」
「魅了の瞳ですか……では」
「そうです。そのせいで桜庭夫人は多くのものを妹に奪われた。両親も、祖母も、祖父も、乳母もみんな透子さんの味方だった。桜庭夫人に与えられるものは透子さんが飽きていらなくなったものだけ。でも桜庭夫人はずっと我慢して生きていた。生まれた時からだったから、それが当たり前だと思っていたようね。でも桜庭夫人は婚約者まで奪われた。ほとんど決まっていた縁談が壊れ、さすがに落ち込んでいた時に慰めてくれた男性と婚約することになってたのに、その男性まで透子さんに奪われたの。桜庭夫人を知っている当時の人の話では、部屋に閉じこもって出て来なくなったそうよ」
「引きこもりですか。でも桜庭夫人になって子供までいるということは、桜庭子爵は姉に奪われなかったんですね」
「それは透子さんが死んだからよ。透子さんは二度目に奪った男性と一緒に馬車の事故で死んでしまったの。桜庭子爵は初めの婚約者だった人なの。どうして一度破談になったのにまた結婚することになったのかは調べてもわからなかったわ」
母の話を聞いて、馬車の事故というのが気になった。また馬車の事故だ。
「それにしても桜庭夫人は自分が両親にされていたことを茉里にしていることに気付いていないのでしょうか」
「桜庭夫人は表面しか見えない人なのでしょう。透子さんとそっくりになっていく茉里さんが恐ろしくて、可愛がることができなくなり、そのぶん妹の愛莉さんを可愛がった。自分の両親と同じように愛莉さんに魅了されていることにも気付かなかった。もし気付いていれば愛莉さんの内面が透子さんとそっくりだと気づけたでしょうに」
桜庭夫人も被害者なのかもしれない。だが、茉里なら自分の娘に同じようなことをするとは思えない。どう考えても桜庭夫人のしたことは許せることではない。そして桜庭子爵も父親としてもっと茉里を庇うべきだったのではないか。彼も自分の罪を透子さんではなく茉里に押し付けていたのか。顔がそっくりだというだけで酷い話だ。
「茉里の両親である以上、失脚させるわけにもいかない。茉里をいじめるものは何者も排除したいが、そんなことをすれば彼女は今以上に傷つくだろう。悔しいが桜庭夫人には手出しできない」
「当たり前ですよ。どんな母親でも茉里さんにとってはたった一人しかいない、自分を生んでくれた人です。あなたにできるのは茉里さんが傷つかないように見守るだけです」
母のいう通りだ。今回、私ができることはあまりない。何をしても茉里を苦しめるだけだ。
だが一つだけ気になることがある。馬車の件だ。桜庭夫人の関係者が二度とも馬車で死んでいる。これは偶然なのか? 調べた方がいいだろう。もしこの件に桜庭夫人が関係していたとしても表に出すつもりはない。それなら調べないでそっとしておくべきなのか? だが桜庭夫人でない可能性もある。その場合、茉里が危ないかもしれないからな。
「お前も新婚早々大変だな」
父の揶揄する声に肩をすくめた。
「全くですよ。せめて真理亜王女がおとなしくしていてくれると助かるのですがね」
「あの方には陛下も手を焼いているのだから、結婚するまでは我慢しなさい」
「結婚すればあのじゃじゃ馬が大人しくなるとでも?」
「いや、隣国に嫁げば我々には関係なくなるという話だ」
真理亜王女の今迄の行いからして、隣国に嫁いでも手がかかりそうな気がしないでもない。
とにかくこの三日間の休みの間だけは邪魔をしないでほしいものだ。
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