第13話 7歳――成長

 そして……俺が生まれてから7年の時が経った……。


 その長い年月の間には……色んな経験や変化があった。


 冥府という場所での生活は……それの繰り返しだ。



 ――まず、最初に変化したことと言えば、俺が7歳になったことであろう。


 いや、当たり前だけど。生まれてから7年経ったのなら、7歳になる。


 何と言うかちゃんと何事もなく成長できていることに、安心と喜びがあるのだ。ふとした瞬間に、以前は背伸びしても届かなかった棚の上に手が届くことに気づく。


 そんな時、背が伸びていくのはこんな感じだったかと思う。人生1週目の時は何も感じていなかったけれど、人間の成長というものには感動がある。


 このまま健やかに成長して、前世よりも身長が伸びてくれたら嬉しい……。



 ――ある時は、家族水入らずで旅行をした日もあった。


 俺と父と母だけで出かけたのだ。いつも配下の侍女や騎士が周りにいるのだけど、誰も連れて行かず3人だけで出かけた。


 旅行と言っても冥府の国の中、結界の内側だったのでそれほど遠い場所ではない。距離にして城から約15kmの自然が多いエリアへ行った。


 馬のような馬じゃないような生物が引く、馬車のような馬車じゃないような乗り物で到着までにかかった時間は1時間にも満たない。それでも、俺にとっては初めての遠出。変わる景色を見ていく興奮は尋常ではなかった。


 何かで遊んだり、美味しいものを食べに行くとかではなく、静かな場所で体を休めることが目標だった旅行。父と母と俺は、特に何をするでもなく、小さな小屋で2日間を過ごした。


 自然の中で、魚釣りもしたし、バーベキューもした。自分の魔法を使ってでの火起こしだとか、珍しい虫や植物の採集……。


 父も母も普段忙しそうにしている。特に父は、冥府の領地を広げるための騎士団――「開拓騎士団」の団長をやっていたので、城にいないときの時間のほうが多いほどであった。


 そんな忙しい日々の中でも両親は、俺の前では全くストレスなど見せず、俺のことを愛してくれた。中界に行きたいということも了承済みである。伝えた時には、すぐに自分がやりたいように生きろと言ってくれた。問題があればなんとかしてやるとも。本当になぜ、こんなにもというほど……。


 いや、それは野暮であろう。無償の愛というやつだ。きっと親から子への愛というのはそういうものなのだろう。


 俺も両親のことが好きだった。これも本能なのだろうか。まだ前世の両親の記憶も消えちゃいないのに、今生の両親のほうが何故だか好き。好きで好きでしょうがなかった。



 ――俺に優しくしてくれたのは両親だけではない。侍女や騎士も皆優しいし……お爺ちゃんである、王様もそうであった。


 ゾーグレウスは聞くところによると、力で制するタイプの王様。欲しいものは力で我が物にして、逆らうものがいれば力で制裁する。俺が初めて会った時の印象もそんなものだ。


 けれど、2度3度と会っていくとそれは変わった。少なくとも俺には優しかったのだ。俺と王様が合う時はいつも1対1か、その場にもう1人くらい王直属の配下がいるのだけど、その時間で王様が乱暴な顔を見せたことはなかった。


 よく笑うし、俺の頭を撫でてくれたこともあった。王様直々に稽古をつけてくれたこともあった。その時に見せてくれた魔法の手本はさすがの一言。父や母にも全く引けを取らない。けれど、ちゃんと父や母のように俺の安全を考えたり、手加減することも知っていた。


 若い時にどんなにやんちゃしていたお爺ちゃんも、孫にはデレデレになってしまうということなのだろうか。祖父母は孫を目に入れても痛くないと言うし、体に入れ墨を彫ったヤクザですら、孫が生まれると驚くほど丸くなったと聞いたことがある。


 だから、俺は王様の事が嫌いではなかったし、むしろ好きだった。王様と父や母が話しているところは見たことが無かったので、おそらくそんなに仲は良くない。理由は知らないけど、お互い用が無ければ近づかないという感じだった。それでも俺にとっては優しいお爺ちゃんでしかないので、嫌う理由は無かった。



 ――特に大きな問題は起こらなかった。変化はあれど、事件は無い。俺が中界に旅立つ日へ順調に向かえていた。


 問題や事件は起こさないように注意していた。


 この冥府という場所、その気になればいくらでも何か起こせそうなものがある。城の地下には色々なものが封印されていて、俺が近づいてはダメな場所があるし、いくつもの鎖で縛られた凶暴な魔物も城内で見たことがある。


 俺はそういうものに一切関わらなかった。ちゃんと言いつけを守って、平和を維持することに努めた。


 転生とかしたら、普通そういう物に触れて何かしら事件が起こったりしそうだけど、そういうのいらなかった。充分境遇には満足していた。この才能をちょっとした間違いで泡にしたくなかった。


 ただ真っ当な努力だけを積み重ねた。才能だけでは一流になれない。才能と努力が両立されてこそ超一流に辿り着けるのである。その辺は元大人としてわきまえていた。



 ――あと他に自身の変化として挙げられるものは、身体能力強化の魔力への性質変化を覚えたとかだろうか。ようやく、本格的な戦闘に役立つ技術を教えてもらえるようになって、形態変化のトレーニングも許可された。


 ――そして、あと1つ。生活に関して大きな変化がある。


 ――俺は冥府にある学校に通うようになっていた。

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