第14話 魔族の学校

「皆さんおはようございます」


「おーはーよーうございます!」


 冥府の国の城下町の中心くらいにある学校――。この町では唯一初等部と中等部を兼ね備えた学校――。窓から、城より大きな花がよく見える1つの教室で、今日も元気な声が響いた。


「着席」


 教壇に立つ担任の女性教師の言葉で、皆が椅子に座っていく。


 その中の1人に俺もいた。窓際の席で腰を下ろすと、教科書を開く。


「じゃあ、1時間目の授業を始めます――」


 先生もクラスメイトも揃って魔族。冥府の小学校では魔族の子供達が学ぶ。


 ここでの義務教育は5歳の時から始まったので、もう2年間通っていることになるけれど、その光景は未だに俺の関心を引いた。


 木造の校舎で、木造の椅子に座っている子供達は、肌が青みがかっていたり赤みがかっていたりする者がいる。コウモリのような羽が生えている者もいるし、大きな角がある者もいた。


 中には目が3つだったり、1つだったりする奴もいて、人間だった俺から見ると……言っては悪いが気味が悪い。


 そんな子供達が、冥府ならではの教育を受けている姿はずっと見ていても飽きなかった――。


「私たちが暮らす冥府の国には3つの騎士団があります。昨日の授業でもお話ししましたね。1つ目が、開拓騎士団。2つ目が、守護騎士団。3つ目が、治定騎士団……です」


 先生が各騎士団の名称を板書しながら説明する。


 今日の1限目の授業は、前世で言うところの社会科の授業だった。国の成り立ちや歴史についての勉強である。


「まず、開拓騎士団は正式名称を領地開拓騎士団と言って、私たちが暮らせる土地を増やす為に働いてる騎士団です。守護騎士団が正式名称、防壁守護騎士団。国に侵入しようとする魔物を撃退してくれている騎士団ですね。そして治定騎士団は正式名称、国家治定騎士団。悪いことをした人を捕まえたり裁いたり、城の警護を担当している騎士団です。今日はこれらについて詳しく勉強していきましょう――」


 先生がざっとした冥府にある騎士団の説明。それは城暮らしの俺にとって昔から熟知しているものだった。


 3つの騎士団は、全てその名の通りの働きをしている。まあ平たく言えば警察みたいな組織である。


「開拓騎士団は最も古くからある騎士団ですが、現王女の夫君であるドライト様が団長になってから大きく成長しました――」


 知っている内容の授業であったけど、俺は先生の話をよく聞いた。


 ずっと黒板と先生から目を逸らさずに、顔を上げていた。


 理由は……。


「――では、結界があるのに今も守護騎士団が壁を守り続けているのはなぜでしょうか?分かる人いるかなー?」


 こういうことがあるからである。


 俺は先生のその言葉を聞いてすかさず手を上に挙げた。そうしたのは俺だけである。


「はい、じゃあシェード君」


「結界が完璧ではないからです。弱い魔物なら侵入できる場合があるし、稀に結界を破れるほどの魔物が現れるかもしれません」


「正解!その通りです。さすが、よく勉強されてますね」


 先生からのお褒めの言葉と共に、クラスメイトの女子達がざわついた。


 俺はそれを聞いて、なるべく抑えながらも頬を緩める――。


 ――2限目の授業は「魔法体育」だった。この世界では最もポピュラーな科目。魔法を使ったり、運動をしたり、あるいは魔法を使って運動をする。


 国語や算数と同じくらいの頻度で、週に5コマある授業である。


 俺はその授業でも、我先にと積極的に手を挙げた――。

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