第20話 幸せハンバーグ

気づいたらもう夕方の5時だ。


勉強してて時間を忘れるなんて俺史上初の事件だ。

夜も明日も一緒にいたい・・・おっとっとっと、、

一緒に勉強したいなぁと女々しい俺はモタモタとノートにのの字を書いていたら ───。

(今どきのの字なんて書くDKいるんかい?)


俺のモジモジを知ってか知らずか、柚木はスマホを取り出して家に電話をはじめた。



「明日も勉強したいから城崎んち泊まる」


家電イエでんしたら母さんが出てた。

友達んちに外泊なんて幼稚園以来の俺。

ダメもとで思い切って言ったら、普段厳しい母親があっさりOKした。


後ろの方で兄さんがワーワー文句を言う声が聞こえてきたがまぁ、いいか。


途中で城崎に電話を代わったが、父さんと母さんはよほど城崎を気に入ってくれたみたい。

都さんに至ってはアパートまで夕食を運ぶと言ってくれたらしい。


ダメだろ ── とんでもないことだ。

流石に城崎が丁重に断っていた。

それでいい、それで・・・・・・

フフフッ・・・(悪い顔)・・・。



だって、今夜は城崎が夕飯を作ってくれるんだ。

俺は、、家庭科の授業は苦手だったかな。(図工もちょっと苦手)


城崎はエプロン姿で野菜を刻んだり肉を捏ねたりしている。

ハンバーグを作るんだって、凄い。

肉、玉ねぎ・・どうやら得意料理らしい。

無条件で尊敬する。

一人暮らしできるくらいだもんな。

俺には無理だな。


白いTシャツにハーフパンツ、黒のギャルソンエプロンを腰でキリッと締めると広い肩幅から細い腰が見事な逆三角形だ。

長めの髪を後ろで軽くゆわえてる城崎。

鼻歌まじりで料理する姿、ジャ○ーズよりカッコイイじゃないか。

思わず見惚れる。


─── ちょっとだけ脅かしてみよ。

うなじがキレイだなぁ、

背中から近づいて耳元に

「すごいな城崎」と声をかけたら飛び上がって驚く。

えっ?そんなに驚くとこか?



息っっ!!!

首に息がかかったよ柚木っ!!!!!

それ意識してやってる?やってない?

絶対やってないでしょ!?

もぉ〰️〰️最高♡

全身の毛が逆立った俺!!

毛穴キューーって、もう最強すぎ・・・

勘弁してよぉぉぉぉ💦


あっ!その技、俺以外には封印ね。

はい約束!指切り♡



おバカな妄想に顔が真っ赤になるのも構わず料理進行。

炊飯器のスイッチを入れサラダは冷蔵庫で冷やす。

ハンバーグは大きめのを二個。

フライパンで焼いていくよ。

よしよし、いい感じ。

城崎家伝来のソースは母さんから教えてもらったウスターソースとケチャップにちょいと味噌&醤油。

軽く煮込む。


ちょっとぉ♡マジ新婚さんみたい♡

あーん、とか?えへへ…♡

腹減ってきた~〜、ぐー!



ますますご機嫌でくるくる働く城崎。

俺もテーブルくらい拭いておこうと立ち上がった。


もうすぐ暮れるなぁ、夕焼けがみえる。

街路樹の葉が揺れてるってことは、


「城崎、窓あけていいか?風が吹いてきたぞ」


「あー、うん。頼むわ」


遠くから澄んだ虫の声。

─ カナカナカナカナカナカナ ──


「あぁ ひぐらしだな。夏の夕暮れって感じだ」


ひぐらし ── 蝉 ──── ひぐらし

あの日も確か・・・・・・。


次の瞬間、俺は再びあの不可解な眩暈に襲われた。


天井が回る、天井がどんどん高くなる。

咄嗟にシンクを掴もうとしたのに、手が届かない。嘘だろ?!


シンクが、ガス台が、冷蔵庫がどんどん遠くなる、高くなる。


身体が崩れ ── 落ちる ─────

柚木 ・・・!・・・ 助け ── て ── !

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る