第6話 帰宅
安心しきった顔をして。
「ンっしょっ、と。」
一気に増えた荷物を担ぎ直しながら俺が自宅に戻った時はもう、周囲は薄暗くなっていた。
今日は裏門から家に入る。
縁側の開いている窓から家に上がり家族と出くわさないよう祈りながらそぉーっと足音を忍ばせて廊下を歩く。
何で自分ちに帰るのに泥棒みたいなマネしてんだ、俺。
でも1階奥の自室に滑り込むのに成功した。
もし、大荷物を背負って帰宅したら目ざとい
都さんは俺が生まれる前から我家で家事の一切を取り仕切ってくれている母より年上(らしい)の人だ。
仕事で忙しい母に代わり、俺たち兄弟の面倒をみてくれる、俺にとっては母より身近に感じることもある人だけど。
過保護っちゃ過保護なんだよな、これが。
無事自室にたどり着いた俺は、押し入れに城崎の荷物を押し込むと急いで私服に着替える。
城崎は、、よほど疲れたんだろうな。
ポケットで熟睡している城崎を入れたままのシャツを部屋の隅にあるベッドの真ん中にそっと置いて、台所へ向かう。
「あらまぁ伊織ぼっちゃま、いつのまに?お帰りだったんですね」
そうそう、高2なのに坊っちゃま扱いなんだよ・・・恥ずかしいんだけど、止めてと言えない俺。
「あぁ、うん、都さんただいま。これさ一人暮らし友達が食べきらないって押し付けられてさ。レタスとトマト」
「あらあら、はいお預かりしますよ。ぼっちゃま夕食は茶の間で召し上がりますか?」
「勉強するから部屋で食べるよ。用意して?」
次男坊の強みをいかしてお願いする。
俺のおねだりに都さんがNOと言わないことも承知の上だ。
雪子お嬢様がお兄様と夕食でおしゃべりしたいって言ってましたわよ、っていうプチお小言はスルーして。
用意してもらった夕食を盆に載せて廊下を早足で歩く。
── 城崎はまだ眠っているだろうか。
「あら伊織、夕食は部屋なの?」
部屋に入る直前、ドアの真ん前の廊下で母に引き留められた。
母は父の会社を手伝ってて、この時間に家にいることはめったにないのに今夜に限って・・・。
小千谷紬の単衣を着ている小柄な母を見下ろしつつ、ヤバって顔を隠しつつ面倒くさそうに返事をする。
「あぁ母さん。勉強があるんだ」
俺のつっけんどんな返事に少しだけ眉を寄せると、
「熱心なのはいいけど食べながらはいけませんよ」
「わかってる」
ぶっきらぼうな俺にため息をつきつつ、でもさ、母さんだって相変わらず俺を子供扱いだ。
突然入って来ないとも限らないから、念のため部屋に鍵をかけておかないと。
─── あれ、城崎目が覚めたのか。
俺のシャツのポケットから這い出して。ベッドの真ん中でちっこいあいつがちょこんと正座してる。
何だよお前、可愛いじゃないか。
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