第5話 アパート

知らない道を一人で歩く。


いや、一人じゃないか。

もう一人、俺の胸ポケットで眠っている奴がいる。


城崎新。

2年生のクラス替えでこいつと同じ組になった。


確かに入学当初からやたらモテると評判で、女の子はもちろんだけど男の友達もあきれるほど多い。

茶髪の長髪をなびかせて制服を着崩すような軽い男だが成績は学年で常に上位。

だから先生方からのウケもいいし生徒会でも話題になる有名人。

訳のわからない男。

いわゆる人タラシ、そいつと今日もやりあった。


俺の方が正しい、圧倒的に正しい。

なのにこいつとやりあうと俺が悪者になったような奇妙な気分になる。

正論を言ってても周りはみんなこいつの味方に見えてくる。

そして俺もそう思ってしまう。


はっきり言って苦手な男だが何故か目がいく、理解不能な奴だ。


その学校一苦手な男が俺のポケットの中でぐっすり眠っている。


放課後の口論の後、教室へ荷物を取りに戻ったらこいつが掌に乗るほどに小さくなって不安と怯えいっぱいの瞳で俺を見上げていた。

その姿をみた時、どうしても俺には放っておくことができなかった。


さっき公園でこいつと話をしたときに聞いた住所を地図アプリに入れて、一人暮らしのアパートへ向かった。


高校から歩いて20分くらいか、3階建ての新しめのアパート。

俺は意味もなく人目をさけるように階段で2階の角部屋にたどり着くと、デイパックから鍵を取り出してドアを開けた。


見た目超チャラ男のこいつのこだから。

部屋の中も期待していなかったが、正直驚いた。

ワンルームの部屋は整理と掃除が行き届いてて清潔。

へぇーと半ば関心しながら、ポケットの中のあいつを起こさないように気をつけながら俺は作業をはじめた。


冷蔵庫に残っていた牛乳を捨て、使いかけの野菜はデイパックに詰めこんた。

ゴミはまとめてアパートのごみ収集かごに棄てる、らしい。


「明日は燃えるゴミの日だから頼むよ」

「ゴミ袋は指定でないとダメなんだ」

「袋に 城崎 ってマジックで書いくれな」


男子高校生らしくない、新婚主婦みたいなこと言ってた。


大体の始末ができた俺は部屋のカーテンを閉めて不必要なコンセントを全て抜いた。

次に机に向かい教科書や体操服、パソコンやタブレットなど学校の必要品と私服、下着、制服のワイシャツを手近なスポーツバッグに詰め込んで。

これでほぼ終わりだな。


最後アパートをでる前、ぐるりと部屋を見回して1日も早くこの部屋にあるじが帰れますようにと思いながら玄関ドアの鍵をしっかりかけた。

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