第2話 目眩

どういうわけか柚木とまともに話せない。

今日はどうしたんだろう。

いつもの10倍くらいムカついた。


ちゃんと話さなかった俺が悪い、そんなことわかってる。

女子たちのいうように説明すりゃ良かったんだろうが、どうしてか柚木にだけは素直になれない。

たとえ俺が間違ってても反発してしまう、謝れない。


同じクラスになってからは余計に、姿を見るだけでむかつく、無性に腹が立つ。

たまに話をすれば今日みたく言い争うことばかりだ。

だから奴を見ないようにしている、関わらないようにしていた。



はぁ・・・キツ。

まだ頭の中がカッカしている。

やたら喉が乾く。

梅雨明け前の教室は暑くてだるいんだよ。


校舎の近くの楠の大木からは、蝉の声が遠く近く聞こえてくる。

あいつらちっさい虫のクセに声はデカいし、通るし、脳に刺さるようだ。

クソ面倒くせぇと、通学用のデイパックに手をのばした。

その時 ──────。


突然、デイパックがぐにゃりと歪んだ。

えっ ───?

グレーの床が目の前に迫ってきて、はぁ?なにが起きたんだよ。

慌てて床に手を付いて視線を上げたら吐き気と同時に教室の天井が回りだした。

目の奥が揺れて足元が一気に崩れ落ちる。


「....... あ ――ぁ―――!――――」



気づい時には床にひっくり返っていた。

この俺が転んだ?貧血?まっさか。

いや、どこも痛くない。


しゃーねぇな、と立ち上がろうとして気づいた。

さっきまではなかった、見たこともない巨大な鉄の柱が目の前に立っている。

教室に鉄の柱?


それに天井がやたらと高く見える。

やっぱり貧血?目眩とかなってるのかもしれない。

そういや最近暑いし、ろくなもん食ってなかった。

まずは落ち着こう・・・。

目を閉じて頭を振って、ゆっくり目を開けた。


巨大な鉄の柱・・・やっぱり立ってる。

でも待てよ、これって机の脚じゃねぇのか。

まさか。

だって抱えるほどに大きい、見上げるほどに高い。


ぐるりと周囲を見まわす。

教室の机が高層ビル群のように俺を取り囲んで見下ろしている。

俺の黒いデイパックが熱気球のように宙に浮いている。

いや巨大な机の横に引っ掛かっている。


どういうことだ。

周りがでかくなってしまったのか。

一体何の悪夢だ。

口を押えて吐き気を抑えた。


その時、


「お前・・・まさか、城崎・・・か?」

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