第6話 太陽点検
「ほーら、ラヴィー。もう出ていいぞー」
「…お?。おぉーー。ひろーい。みどりー。あおーい。」
…久しぶりに彼女がはしゃぐ姿を見たな。服の洗濯が大変そうだ。
だがそれ以上の収穫だ。ラヴィーにとって初めての空を幸せなものにできたんだから、これくらい安いものだ。
ラヴィーを研究所から連れ出すのには苦労した。執行官とかいう、おっそろしい役人に目を付けられないようにいろんな手を尽くしたのさ。
最終的に、ラヴィーを研究機材の木箱に押し入れて、野外研究の名目で外に出る。という方向性にした。
嘘はついていない。木箱の中身は研究に必要なものだし、魔物も特殊な例を除いて野外にしかいないんだ。
護衛に雇った傭兵も話の分かる奴を選ばせてもらった。その結果、ただ外についてくるだけで、そこそこの額を貰えるという眉唾物の話になってしまったがな。
「アニキ…なんか女の子の声が聞こえたような……」
「やめとけ、やめとけ。そういう契約だろ?俺たちは今、耳が聞こえない。目も見えない。何も覚えちゃいない。いいな?」
傭兵たちはそう言っている。それでもちゃんと周囲に魔物の気配がないか、気を張っているようだ。これならラヴィーにもう少し遊ばせてやれそうだな。良かった。
本当に…良かった……
「泣いているのかい?ヘルム君は」
「…泣いてませんよ。ただ…久しぶりの太陽は、目に
「…太陽を直接見るんじゃないよ」
博士は呆れたように言うが、それは貴女が言えたことじゃないでしょう?だって、口元がほころんでますよ?ああ、そういえば博士の笑顔も久しぶりに見た気がする。
「アニキ、そういえば妙な
「何だ?」
「最近、異形の魔物が出始めてるって話で。強さはあまり変わらないけど、見た目が…何というか、かなり気持ち悪い見た目をしてるそうで……」
……異形?
魔物は他の生物を
居る…わけが……
「ぐぅっ⁉」
「ギャッ⁉」
意識の外から現れたのは、
人の倍はありそうな巨体が宙に浮いていた。その姿は気持ち悪いと形容するより、
ミミズのような頭部には数多の眼が這い回り!
二対の半透明の羽が不快な音を立て!
丸まった胴と
「とーー。」
ラヴィーは倒れた傭兵たちと魔物の間に割って入ったが、その攻撃は
「…とぶの、ずるい。」
「博士!二人を安全な所へ!そっち持って!」
「魔物め!私に肉体労働させる気か⁉」
何だ!何だ⁉ 何なんだアレは⁉
どう考えても混ざっている‼これが魔王出現の影響なのか⁉
だが魔物は待ってくれるような優しさは無い。
「…がっ⁉」
恐ろしい勢いでの突進。傭兵たちのように不意を突かれなかったから、両腕で防ぐ事こそできたが、鼻が折れてしまったようだ。それに両腕の感覚も痺れている。これは…まずい。
「ヘルム君‼」
「……だいじょ、ぶです!あと一度なら耐えれます‼」
「そうじゃない!ラヴィーの方‼」
背後から寒気を感じた。今後ろにいるのは、ラヴィーだけ。
振り返ったそこに居たのは、別人だった。
「――あ、あぁ……ア゛ァアアアアアアアアア‼」
脳裏によぎったのは、暴走。
そう思ったしまいそうなほど、周囲の魔力が
「潰れろ‼」
地面から掘り起こされた巨岩が、必殺の質量を
しかしただの質量弾など
空中で方向を変え、先程以上の速度で背後から奇襲する‼
魔物の回避は…失敗‼巨岩の方が疾い‼
ラヴィーは岩石の前で腰を深く落としている。
岩石?否⁉これは⁉
彼女の右腕‼それを岩石で覆ったものだ‼
「
巨岩と岩石拳。互いに高質量、高速度。並の魔物なら千度潰れても余りある威力が、たった一匹の魔物に向けて放たれる。
そして攻撃はそれだけに留まらない。
…回転。回転!回転‼
「
――粉砕。
俺は、この光景を忘れる事はないだろう。
その、嬉しさを噛みしめながら。
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