第2話 倫理は投げ捨てるもの
博士にこの水槽の中の少女の面倒を見るように言われてはや二か月。ヘルムは限界を感じていた。
博士は面倒を押し付けたのか?最初の一か月はよかったさ。水槽の中の彼女は大人しいものだったしな。
唯一の問題は毎日の診察の時に全裸だという事ぐらい。その程度
そうして迎えた彼女の開放初日は散々なものとなった。
泣いて喚いて、手当たり次第に物を持ち、投げるわ口に入れるわの大暴れ。その被害額は王立研究所の
これがただの赤ん坊だったら止めるのに苦労は無かっただろうに、あろうことかこの少女は
博士がヘルムの言う事も聞くように、と言ってからは、自分の言う事もある程度聞いてくれるようにはなったが、依然として興が乗った彼女を止めるには博士だよりであった。
「…博士、なぜ私をこの子の世話係にしたのです?そもそも彼女は何者なんですか?
ボロボロの姿のヘルムは、今は寝てしまっている、そうなった張本人の頭を撫でるレーヴ博士を質問攻めにする。博士は何かを聞かれてもその答えに辿り着くためのヒントしか教えない人であった。だが今回は例外であった。ヘルムの姿に同情したのかもしれない。
「この子はね……
そう言うと博士は懐から一枚の紙きれを出す。それに書いてあったのは設計図。
「通常の
「
ヘルムは言われる通り紙きれを裏返すと、その書き込みに驚愕する。よく表に移らなかったものだと思うほどギッシリ書かれている。遠目で見たら真っ黒に見えるだろう。そしていくつも重ねられた文字と計算式、その中に気になる文言を見つけた。
「
「その通り、寿命は大分延びているよ。ざっと数十年ほどね」
「ちょっと待ってください⁉今までの
「寿命は単純に水槽の外に出たらの話だよ。水槽の中なら数年もった例もある。だけど外に出た瞬間寿命が尽きた例だってある。……それなら出さなければいい、自分の意志で動かせるゆりかご、それが殻の……
「……
そう言ってから、恐ろしい事に気づいてしまう。
「……もしそうなら!彼女はこうして寝ている今もずっと!魔法を行使している事になるんじゃないですか⁉そんなの…脳が焼き切れてしまう‼」
魔法を行使する際の注意点はいくつかあるが、最も発生しやすいのは使用者の疲弊。それによる事故。
魔法は意思で発動する。相応に頭を使うのだ。そのため長時間の発動は避け、適度な休憩を取らねば手元が狂うリスクがあった。当然、寝ながらの行使など不可能。寝ながら食事をとるようなものだ。
「そうさ、常人ならね。この子は半分
「
「それに、ロマンだった
そう言い、レーヴ博士は寝ている少女の、
「ああ、あとなんで世話係にしたのか、だね。単純な事だよ」
「何なんです?」
「君がフツーだから。ほんとに研究者?この子を実験体として見てないじゃないか。
「
ヘルムはこの残念な上司に呆れ返る。何よりも研究を優先する研究者に。
そして、この
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