第4話
「あら、道端の石ころかと思ったわ。ごめんなさいね?まさか一国の王子がこんなにしょぼ――ゴホンッ!影が薄――オーラが薄汚れ――あ!大人しいとは思わなくて。おほほほほ!!」
「!!」
「お、お嬢様!?」
(二人の反応からしていい感じのようね。シェリーには申し訳ないけれど...)
シェリーは先程まで天使のように微笑んでいた少女が急に王太子相手に失礼な態度を取り始めたことに困惑していた。
だが、当のアージェラとしては、良い悪役令嬢ぶりだと喜んでいた。
「ふっ...」
「あ、あわわわ...!で、殿下!!違うのです!お嬢様は決して殿下を侮辱したわけではなく―――」
「ふはははっ!」
「「えっ――??」」
みると、王太子は口元を抑えて思わずといったように笑っていた。
(えっ、悪役っぽい言い方だと思ったのに、なんで笑われているのかしら!もしかして、人間界ではおかしい喋り方だったとか?それとも内容が―――?)
「ちょっと、何を笑って―――」
「お嬢様、王太子殿下、もうパーティが始まりますよ」
腕を組みながら見下ろすようにしてキツめの口調で内心の同様を隠すように問いかけたところで、邪魔が入った。
黒髪の、長い襟足を括った執事のロン・ヴィエンテだ。
「ごめんなさいね、今行くわ。いきましょ、シェリー」
「あ...は、はい!」
もう用は終わったとばかりに踵を返してスタスタと歩いてゆくロンに小走りでついて行く。
シェリーは何か言いたげだったが、急いでアージェラについていった。
一人その場に取り残されたエリクセン王子は唖然としていたが、やがてククッ、と眉をひそめて笑った。
「あんな奴もいるんだな」
小さく呟きながら、エリクセン王子は会場へと足を向けた。
★☆★☆★☆★☆★
Erichsen's story
エリクセン・アーザイア・フォン・リーヴェラ。それがアーザイア王国第一王子に与えられた名。
その名前の重みを理解し、知っている者など一人もいない。彼が名乗るだけで国中の民が跪くだろう。刺客が襲うだろう。
気楽に過ごすことができない、それが齢8つの少年にはどれほど苦痛だったか。
王太子という肩書に嫌気が差し、元々優秀だったはずの彼は、段々と気怠そうになったゆき、ついには何もしなくなった。
帝王学も、乗馬も、剣術も、魔法も。外出でさえしなくなっていたのだ。
周囲は彼を影では『落ちこぼれ王子』『穀潰し王子』『怠惰王太子』などと言って、嘲笑った。
かつて見せた優秀さなど忘れ、今目に写っているものの表面だけを見て影で嗤う。
誰も面と向かって言ってきやしない。散々王太子を馬鹿にするくせ、その権力が怖いのだ。
その事実が、エリクセンを苛つかせた。面と向かって言われたほうが幾分かはマシだろう。
故に、その天使のような少女が王太子である自分を正面から悪く言ってきたのが、嬉しかった。
その可憐な姿からは想像できない表情を浮かべ、とても2つ下とは思えない風格をもって自分を真正面から馬鹿にしてきたのだ。
それも、王太子と知っていて、である。
きっと、ただの可憐な少女だったらなんとも思っていなかっただろう。
表が『優しく可憐なお嬢様』なんて腐るほどいる。だが、そんな娘たちでさえ、彼を影で嗤うのだ。
(名前は確か...アージェラ、だったか?今度試しに権力で脅してみよう。どう出るかが楽しみだ)
エリクセンの興味がアージェラに向いた瞬間であった。
突然始まる女神様の悪役ライフ!〜私が何人の転生者を送ってきたとお思いで?〜 @clorofie
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