第2話 時々、時計が止まる意味


 現在、壁時計の秒針は止まったままだ。

 これまでの様子を見ていると、秒針が止まる前には、必ず「かかかかかかか…」という金属の部品が何かに引っ掛かったような音がする。その音が出ている最中に、さっきまで流れるように進んでいた秒針はその動きを止めて沈黙する。そして、程なく、引っ掛かったような音も沈黙する。

 こうして、完全沈黙が壁時計に訪れる。


 時計が止まっている間、俺自身も含めて、周りの様子は何も変わっていない。当然のことだ。これが、ホラーやSFなら、こうやって、不定期に時計が止まっていること自体に意味があったりするものなんだろうけど、残念ながら、これは、現実世界だ。

 それを証拠に、時計が止まっている間も、クローゼットの扉に貼ってある子どもが通っている学校から配られたプリントがエアコンの風で揺れているし、階下からは、オンラインゲームをしている息子の叫び声と罵り声が聞こえている。

 水槽に目を移すと、金魚は無目的に泳いでいるし、ネオンテトラも泳いでいる。普段、じっとしていることが常のオトシンクルスですら素早い動きで動いているくらいだ。周りは何も変わっちゃいない。

 ドラマや映画に出てくるような、自分自身以外のものが停止する、なんてことにはなっていないのだ。


 大体にして、「時間」というのは、元々、太陽活動の動きの速さから人間が作った概念に過ぎない。


 ―それでも、もしも、止まるなら、全ての分子・原子・電子・素粒子の運動が止まるので、時間が止まったところで人が認識することは不可能。もしかしたら、今この瞬間もしばらく時間が止まっていたかもしれないながら、時間が止まっていたという証拠も止まっていないという証拠もないのでそれを確認する事はできない―

 そんな文章を科学・物理系のネット記事でも読んだ。


 いや、そんな記事をネットで読むくらいに、この壁時計が止まっていることに何らかの意味を俺が見出そうとした、ということは、恥ずかしながら認めよう。





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