第4話 駅で出会う②
列車の中は先輩しかいなかったあの駅とは違って、座席の六割が埋まるほど人が座っていた。そこには、同じ制服を着た人も座っていた。
僕は先輩が座った席の横に、ちょこんと座る。
そうなったのは、先輩がポンポンと座席を叩いて、
「もう、話さないの?」
なんて、少し潤んだ声で言ったからだ。
まあ、少し先輩補正が入って潤んだ声に聞こえたのかもしれないけど……。
「それで、若月先輩。話って?」
「うん、雑談しようかなって」
「相談?」
「違うよ。雑談、ざ・つ・だ・んだよ。どうして、相談すると思ったのよ」
〈そう聞こえたんだよ〉
彼女が求めていないような言葉が口から出てきそうだったけど、僕はうまく飲み込んで、
「雑談ですね。じゃあ、若月先輩の好きな食べ物ってなんですか」
「お寿司。特にマグロかな」
「若月先輩は料理作るんですか」
「うーん、ちょっとだけかな。両親の誕生日の日に作ってるよ」
彼女は、僕の顔の前でVサインを掲げた。
その姿が少し愛らしくて、僕はついつい笑ってしまう。
僕と彼女の雑談は、高校の最寄り駅から3つ離れた駅に到着するまで続いた。
「凛花、おはよう」
雑談が終わったのは、若月先輩の後ろから聞こえた挨拶が彼女を振り向かせたからだ。声の持ち主は、僕のことを毛嫌いしているのか冷ややかな視線を送ってきていた。
「おはよ、拓磨。今日は早いね」
「ああ、ちょっとユークリッドの互除法を忘れてな。てか、そいつ誰?」
「んー、面白い後輩の葉山冬樹くん」
「ふーん」
彼は誰か訊きながら、特に興味なかったのか曖昧な返事をして彼女の隣の席に座った。僕の方を睨みつけながら。多分、他にも席があるのに座らないのはそれが理由だろう。
その硬直状態は、話せるような空気を吹き飛ばし、辺りは静寂に包まれた。
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