幕章 死ぬ程洒落にならない怖い話【Q州K村の〇〇〇〇様】

 小学五年生の頃の話になるんだけど、父親の仕事の都合で、Q州地方にあるK村っていう所に引っ越したことがある。

 村っていうだけあって、そこはすごい田舎だった。周りには山と川と田んぼしかない。家も数件しかなくて、どれもおばあちゃんちって感じの古い和風家屋。住んでる人はみんな農家で、最寄りのコンビニまで行くとしたら、車で三十分もかかるような土地。

 なんで街中じゃなくて、そんな所に引っ越したかっていうと、遠い親戚の持ち家がそこにあったってことと、妹が病気がちだったから、空気のキレイな所に住もうっていう考えが両親にあったからなんだけど、正直ちょっと落胆してた。それまで、ずっと都会暮らしだったから。

 まあそれでも、住めば都って感じで、段々と暮らすのが楽しくなっていった。運がいいことに、自分と同い年の子が二人、村にいてさ。(幼馴染っぽい男の子と女の子)すぐに仲良くなって、妹と一緒に遊んでもらったりしたよ。山とか川とか、大自然の中で遊ぶのは、都会っ子だった自分にはすごく新鮮だった。

 その時はちょうど夏休みで、二学期から転入する予定だったから、学校にはまだ行ってなかった。だから宿題も無くて、その子たちと毎日のように遊んでたんだけど、引っ越して二週間ぐらい経った頃だったかなあ。その村で行われるお祭りに参加しなきゃいけなくなったんだ。家族総出で。

 なんでも、その村で毎年行われてるお祭りだったらしいんだけど、今にして思えば、変な内容だった。

 村の住民全員で(といっても、二十人もいなかった気がする)、民謡みたいなのを歌いながら、ぞろぞろと列になって村中を練り歩くんだ。それも、運動会の綱引きの時に使うような藁でできた長縄を、肩に回して担いで。

 正確に言うと、長縄を担ぐのは大人の男の人だけ。先頭は、村の長老みたいな立場のお爺さんが務めて、鈴の付いた杖をシャンシャン鳴らしながら歩いて行く。長縄の先端はその杖に繋がってて、長老、長老の息子さんたち、別の家のお父さんたち……っていう風な順番で、長縄をぐるっと肩に回して担いで、一列になる。

 女の人と子供は、その列の周りを囲うみたいにしてついていく。それだけじゃなくて、枡っていうのかな。木でできた箱を持って、その中に入ってるお米を、道にパラパラ撒いていく。

 ちゃんと衣装もあって、男の人たちは白い法被、女の人たちは白い割烹着を着てた。その中で、長老のお爺さんだけは立派な白い袴の姿だった。

 自分たちの衣装は無かったけど、白い服で来るように言われたから、上だけ白いシャツで行った。(白い格好をすることに、何か意味があったのかな?)

 子供ながらに、変なお祭りだなあって思ったけど、郷に入れば郷に従えって感じで参加してた。村の子たちにやり方を習って、見様見真似でそれっぽく。

 お祭りの主旨としては、村の上手にある神社に祀られている、〇〇〇〇様っていう五穀豊穣の神様に豊作を願う、みたいなものだと聞いてた。(なんで名前を伏せてあるのかは、また後々)

 で、夕方にその催しが終わって、公民館で打ち上げみたいなことをやってたんだけど、お祭りはそれで完全に終わりってわけじゃなかった。自分と妹はそれで終わりだったんだけど、両親はまだ参加しなきゃいけない行事が残ってた。それが、宵の儀とかいう行事だった。

 聞いた話だと、その宵の儀っていうのは、K村に新しい人を迎える度に神社で必ず執り行っている、伝統的な催しらしかった。宵の儀って名前の通り、それは必ず夜に行わなきゃいけないんだと。

 ちなみにその神社、〝〇〇〇〇様のお社〟って呼ばれてて、子供は入っちゃいけない場所だって、村の子たちから聞かされてた。大人しか立ち入ることができないって。だから自分と妹は、その催しに呼ばれなかったんだろう。

 打ち上げが終わって、家に帰って一息ついた後、両親はその宵の儀に参加する為に出掛けて行った。当然、自分と妹は家でお留守番だったんだけど……そんな時に限って、妹がぐずり始めたんだ。なんでパパとママがすぐ帰ってこないのって。

 仕方ないだろ、もうすぐ帰ってくるよって言ってなだめてたんだけど、ちょっと目を離した隙に、妹が耐えられなくなったのか、おもちゃのペンライト片手に家を抜け出して、その神社に行っちゃったんだ。

 すぐに気が付いて、懐中電灯持って家を飛び出したら、神社の方に走ってく灯りが見えた。何かあっちゃいけないと思って、慌てて追いかけたんだけど、妹は案外すばしこくて、一足先に神社に辿り着いちゃったんだ。

 ああ、着いちゃった、子供は入っちゃいけないって言ってたのに、怒られるかな、まあ両親もいるし大丈夫か、って思いながら、自分もすぐ神社に辿り着いて、中に入ったら……異様な状況が待ち構えてた。

 神社の中には、村中の男の人たちが祭りの時と同じ格好で集まってた。みんなで、ぐるっと車座になってて、その中心に両親がいたんだけど、二人とも様子がおかしかった。

 尋常じゃないくらいぶるぶる震えながら、床にへたり込んで身を寄せ合ってたんだ。まるで、すごく怯えてるみたいに。よく見ると、母親の方に汗だくの妹が取り縋ってた。母親はなぜか必死に、妹の目を手で覆ってた。

 その奥には、お膳を使った簡易的な祭壇みたいなのが並んでて、その向こうに、村の長老のお爺さんが立ってた。やっぱり祭りの時と同じ、白い袴姿だったんだけど、なぜか、顔に白い仮面を着けてた。両目のところに、縦に細長い切れ込みを入れたような覗き穴がある、なんていうか……蛇が睨んでる顔を模したような仮面だった。

 中に入った瞬間、村の男の人たちが妙にどよめいてたのを覚えてる。自分も自分で、え?何この状況?ってポカンとしてたら、急に白い仮面をつけてた長老のお爺さんが、


「げぇええぁああああああああっ!」


 って、気持ちの悪い叫び声を上げながら、こっちに向かってきた。うわっ!って思った瞬間、その仮面の向こうに見えてた目と、目が合った。

 それは、真っ白な目だった。黒目が白く濁ってて、生気を感じられなくて、大きく見開かれてて、吸い込まれてしまいそうで―――。

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