第74話 扉を叩く二人

 十字路の上の空はいつの間にか朱色しゅいろに染まり、あたまの上は昼間より濃い青色に、海風は知らぬ間に、海に向かって吹く陸風に変わっていた。

 朱色しゅいろは見ている間に茜色あかねいろに、濃い青色へと移り変わった。

 ライトの様に明るい星が光る。

 風がおもむく先の空には、小さく弱くきらめく星達が姿を見せ始める。

 そよぐ風は、心地の良い草木の香り。

 やがて星々の世界が訪れ、静けさと涼しさと、虫達の恋模様が始まる。


 ランプをともし、始まった夕餉ゆうげ

 なごやかな笑いに満ちた一時ひととき


 蟒蛇うわばみが出たでしょうよっ。二人で食べる食べる。

 肉もソーセージも、道の駅で買いそろえた野菜に名産品のスイーツ、俺のバドワイザー。

 3本有ったバケットにチーズ、その体の何処どこに入るのかと思うと、二人してTシャツをめくり、ぽんぽこぽんぽこ、腹鼓つづみを打ち始める。

 食べ終わるころには、お腹がぷっくり。

 朝用に卵とベーコンが残ったのはさいわいだ。

 コンビニ無いし、明日は帰りに買い出しでしょうよ。


 二人がこれだけリラックスできるなら、無事解決したら明乃あけのちゃん達も呼ぶでしょうよ。


 「はいはい、うちは始業8時半だから、ここから1時間は走らないとだし、7時半前には出るでしょうよ」

 「ぇぇぇえええーーー、僕まだいけるよぉ~~~」

 「私もまだまだ飲めるし食べれます」


 「俺のバド、全部飲むの」「「飲むぅーーー」」

 「やぁーーーめてっ、食料だって3日分を想定してたのよ」

 「所長、僕達を甘く見てます」

 「ふっふぅ~~~、私達は陸自で、ツインブラックホールの二つ名があるんです」

 初耳だわ。よくそのプロポーションを維持いじできるなぁ~~~。

 「もうね、とにかく部屋に戻って、俺もサクッと片付けて、寝るからさぁ~~~。それと明日、仕事の帰りに買い出しをするでしょうよ」

 「「えええぇぇぇ~~~」」「え~じゃないよ。二人で食べたんだから」

 「僕の前にベーコンが」「私の前には卵が」「それは朝にするでしょうよっ」

 「「ちぇっ」」いき合ってるな。

 「折角せっかくのキャンプなのに」「違うから」

 「休暇きゅうかなのにぃ~~~」「そうだけど、明日からお仕事だから」

 「「ぶぶぶ」」「ミス・テリーやかぴたんじゃないんだから、豚さんしない」

 「べぇ~~~」「いぃーーー」いき合ってるな。「戻って戻って」


 ぶ~たれて、やっと虫よけネットの外に出て行ったでしょうよ。

 俺はいつも通りで良いはずなのに。

 「まもちゃん、ハイネケンあるよ」「飲むぅ~~~」

 りくちゃん持って来てたのっ。

 「じゃぁ~私、サラミ持って行くぅ~~~」「僕の部屋で待ってる」「OK!」

 二人共持って来てるの。



 残った炭を火消つぼに移して、ふたをする。

 灰はゴミでいいかな、聞いてみるでしょうよ。

 俺もシャワーで汗を流して横になるか。TVはネットだったな。

 クーラーボックスを持って、ランプを消す。

 「・・・足元が見えない、りくちゃんの部屋かられるあかりだけじゃ、目がれるまで動けない」

 部屋の照明が消えたら、星あかかりだけ。

 寝静まれば、木の葉がこすれる音、草が風にれる音、あとは虫が鳴く音だけでしょうよ。

 あっ、目がれた。虫よけネットの横、りくちゃん、まもちゃんの部屋がある側から外へ。

 部屋に入りクーラーボックスの溶けた氷水こおりみずをシンクにてる。

 冷蔵庫から氷を出して、冷やして置いたバドワイザーと一緒にクーラーボックスへ。

 冷蔵庫にバドワイザーを補充、シャワーをして洗濯して、映画でも見て寝るか。



 どんどんどん。「開けてっ」どんどんどん。「開けて下さいっ」

 あ~、あっ、まもちゃんっ、αアルファかっ。

 微睡まどろみから引き戻され、あかりをける。

 どたどたどた。かちゃ。「ひっ」「入ってっ」かちゃ。

 袖丈そでたけが二の腕まで、胸元が広く開き、すそ膝上ひざうえ10cmぐらい。

 袖口そでぐち、首まわり、すそはひらひらしている。

 白色の所謂いわゆるネグリジェでしょうよ。


 どんどんどん。「開けてっ開けてっ」どんどんどん。「僕をひとりにしないでっ」

 今度はりくちゃんかっ。どたどたどた。かちゃ。「早くっ」かちゃ。

 袖丈そでたけひじより上で、しぼりがあり、ひらひらが付いている。

 首まわりは鎖骨さこつあたりまで開いていて、えりはひらひらしている。

 すそ広がりでひらひら付き、上から下にボタンが並ぶ上着。

 ズボンは膝上ひざうえあたりでしぼりがあり、やっぱりひらひらが付いてる。

 たてがみのあるわんこが、雄々おおしく岩に乗る図がいっぱいの、可愛らしい所謂いわゆる寝間着ねまき



 忍び足でとびらに近付き、気配を探る。静かだ。

 ノブに手を掛け、ゆっくりととびらを開き、あたりを見渡す。

 りくちゃんの部屋からあかりがれていても、周りの闇は濃く、吸い込まれているかの様に、そこしか見えない。

 とびらを閉めじょうをかけ、振り返る。

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