第68話 Terra《テラ》 nullius《ヌリウス》

 フランソワーズは手際てぎわが良い。

 あまった材料、食品を俺とジムに集めさせ、その間にフランソワーズは大きな生ごみをささっとかき集め、水を切り袋に入れて、一旦いったんすみに置く。


 冷蔵庫や棚に食品をしまい終わると、フランソワーズが軽く水洗いして、シンクの隣に置いていた食器類を、俺とジムでその下の食器洗い機に入れていく。

 ポットはかさばるので後回し、お皿やカップやナイフにフォーク、ベラやお玉が一回目でしょうよ。


 さて、食器洗い機が稼働中の合間あいまに紅茶を入れ直し、中央のソファーにフランソワーズと俺、その隣カウンター寄りのソファーにジムが座る。

 対面の席が無いと言うのは、話しにくい。



 君が笑う。無邪気むじゃきに笑う。

 純真じゅんしんに笑うさまは、曇り無く、よどみ無く。

 笑われているのに、晴れ晴れとして清々すがすがしい気持ちになれる。


 君は困り顔。どうしたものかと思案しあんする。

 浮かない顔で、心痛しんつうして、心配する。

 うれい無く話しているのに、晴れ晴れとしていたのに、不安な気持ちになる。


 時間は戻らない。選択肢をうばう運命などけっして認めない。

 二人との邂逅かいこうは、追憶ついおくの中の宝物。


 「ぶっ、くっくっくっ、ぎゃぁぁぁああああはははーーーパパだパパだぁーーー」

 ぶぅ~~~。「なっ、フランソワーズ」「出物腫物はれものところきらわずでしょう」

「俺は良いけど」「だぁ~~~て、可笑おかしくってあはははぁ、お腹いたぁ~い」

 「ダディ、真剣に考えているのかい、可能だと思っているのかい」

 「今回の案件が完全解決し、前例が出来れば、こちらから解決見込みのある事件を提案できるでしょうよ」


 「でもパパ、たぬきみたいな人達がその提案に乗って来るかしら」

 「だから相談してるでしょうよ。他国の案件が増えて来れば、あせるでしょうよ。今までおこめ国やおうロッパ諸国は、軍事目的の案件のみ依頼して来ていて、可能な限り断って来た」


 「軍事なら、非公開でも動画と音声があれば、作戦行動が取れる。探偵業務ではないから、成功報酬を必要とせず、多少の金額を上積うわづみしても、実戦部隊の兵士の命を救えるのならとても有意義ゆういぎだよダディ」


 「ジムッ、あの子達に大量殺戮さつりく片棒かたぼうかつがせたいのか」

 「NO!」「パパ、ジムは一般的な事を言っただけよ。そう言う世界だから」

 「フランソワーズ、分かってるでしょうよ、ジム、悪かった」


 「二人の所でも未解決になってる事件、あるでしょうよ」

 「ダディ、沢山あるよ」「ええ、いっぱい」

 「だから実績が出来たら、共感してくれそうな人達を動かしてくれないか」

 「私達にここの営業を頼みたいの」

 「それもある、お金が無いと土地が買えないでしょうよ」


 「そう言う声が大きく成ると、あさましい政治家は無視できないでしょうよ」

 「まぁ~そうよね」


 「大きく成った声をまとめられる人を探して、政界でロビー活動をしてもらって、国連とこの国の政府や世論に圧力をかけて、喫茶きっさNTRが周辺を買い集めた土地を、どの国にも属しないTerraテラ nulliusヌリウス無主地むしゅちにしするでしょうよ。同時に量子探偵事務所NTRの存在と能力を世界に公開する。隠れていたら、何をされても無かった事にされるでしょうよ」


 「ダディ、一層危険にならないかい」

 「危険度は今と変わらないと思うけど、存在を世界に明かせば文句が言えるでしょうよ。国連管理下にして、ご家族は職員として一緒に暮らす」


 「パパ、実質ボスが変わるだけじゃないの」

 「だから活動資金の50%以上を自力でまかなうでしょうよ。これなら文句は言わせない」

 「そんな簡単に言うけど、どうやってかせぐの、明乃あけのちゃん泣いてたじゃない」


 「ん~~~、メインは量子探偵業務、後はぁ~営業ルートシミュレーションとか、お天気とか、異性体の合成シミュレーションとか、色々でしょうよ」

 「ダディ、知ってる言葉をみんな並べた、てっ感じだよ」

 「それみんなさくたんやはじめちゃんがプログラムするんでしょう」


 「はじめちゃんの本来の居場所にいる人達は、各科学分野の専門家だし、出せないかぁ~と」

 「ダディ、仮にだよ、仮にそれが可能だったとして、上がって来た成果物を、結局マイハニーはじめやマイハニー早紅耶さくやが評価しなければならないのだろう」


 「そうなるのかなぁ~、おっ、でも最近とても強力なメンバーが加わったでしょうよ」

 「パパ、夢で見た事を話しちゃダメ、私はそんなパパも大好きだけど、ジムや他の国の諜報員も、ここを出入りする人はれなくチェックしているわ」

 「ダディ、僕は良く知っている。フランソワーズはとても良く知っているよ」

 「どこの諜報員よりも深く、より近くで見ている私達が知らないメンバーがいるとは思えないんだけど」


 「ん~~~、それに俺がどんなに頑張がんばっても年を取る。体が何時いつまでこの業務に耐えられるか。出来れば5年以内に実現したいでしょうよ」

 「パパ、私の歳、覚えてる」「16でしょうよ、フランソワーズお嬢ちゃん」

 「違うっ、もう25っ」「あれれぇ~~~、女の子は歳取らないんじゃ」

 ぺちぺちぺち。「もぉ~~~、早く子供が欲しいの、パパと田舎でのんびり暮らしたのっ」


 「だから考えとく」パァーーーンチッ。「う~~~」右頬みぎほほをグゥ~パンチされた。

 痛いでしょうよっ、フランソワーズ。

 と右頬みぎほほさすりながら思うけど、言い返す度胸どきょうは無いでしょうよ。


 「ダディ、僕達がパートナーを見つけて、さっさとこの仕事から手を引きたいと思っている事は、一番よく知ってるじゃないか」

 「でしょうよ。大多数の利益とか言う得体の知れないご都合主義で、3人を生贄いけにえにしたりしない。この仕事に一番適してない事をよく知ってるでしょうよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る