第66話 偽《いつわ》らざる情報戦

 「マッ、所長、これは情報戦ではないかしら」「明乃あけのちゃん、俺もそう思うでしょうよ」


 「つまりダディがΔデルタと接触する事を前提ぜんていに、どんな情報を流すのか。仮にΔデルタが警官としての自覚に目覚め、情報をらさなかった場合、αアルファはダディの事を知らない。警戒する理由がなくなる」

 「だが同じ警官でしょうよ、それもK警察署の副署長となると、情報はある程度、いや大部分を共有せざるをないのよ」


 「マッ、所長、何故なぜなのかしら、マッ、所長が指揮しきの全権をにぎっているのではないのから」

 「明乃あけのちゃん、これまでもそうだったんだけど、それを素直すなお納得なっとくする人はいないのよ。必ず一緒にする事になるでしょうよ」


 「それは初耳だわっ。あのど助平すけべなおじいちゃま達から、国家公安委員長をて委員会が招集しょうしゅうされ、テロ相当で広域捜査が決定され、国家公安委員会から警察庁へ、警察庁長官に広域捜査こういきそうさ本部設置要請ようせいが出される。本来ならテロ等に対しては警察庁が直接県警の指揮しきるのだけれど、マッ、所長を警察のトップ、警察庁長官代理として、全権をゆだ派遣はけんしているのに可笑おかしいわっ」


 「明乃あけのちゃん、長い説明有難う」「どういたしまして!」

 「通例つうれいはね、広域捜査こういきそうさ本部が設置された警察署の署長や副署長が指揮しきまかされるのよ。警察内部の階級的にも、色々書類が作成できる人が成っている訳で」


 「それではさきほど所長が、Δデルタの副署長が異例と言っていたのは」

 「そうなのよはじめちゃん、ゼロではないけどノンキャリアで副署長は大出世だいしゅっせでしょうよ。俺の階級は警部補だから、本当は逮捕状の請求も出来ないでしょうよ」

 「なっ、言われればそうだわっ。あの色ボケじじいっ、そんな人をここの所長にして、助平すけべの事以外忘れているのではないかしらっ」

 なははははは、本当だよね明乃あけのちゃん。

 俺はもっとゆるい部署を志願しがんしたはずなのよ。


 「パパ、Δデルタ尚更なおさら首を突っ込んでくる、と言う事ね」

 「捜査そうさの内容に関係なくね、どうしようかフランソワーズ」「どうして悩むの」


 「えっ、ほら、本職だし、頑張がんばらないとでしょうよ」

 「だめよぉ~~~、パパ働いちゃぁ~~~。茶を飲んで、のぉ~~~んびりしてるパパが良いの」

 「有難ぉ~~~フランソワーズ。でも今回の案件はどうしても解決したいのよ」


 「そうねそうだわ、所長は普段通り、ぼぉ~~~としている方が、油断させられると思えない、明乃あけのちゃん」

 「かもしれないは、マッ、所長がやりれない仕事をするよりも、肩の力を入れずに普段通り、ほけぇ~~~としていれば、役立たずと認識されるのではないかしら」

 「マイハニーはじめ、マイハニー明乃あけのっ、僕もそう思うよ」

 全員一致で、俺のやる気が否定されたでしょうよっ。


 「全員の意見が一致したので、マッ、所長、普段どぉ~~~り、コーヒーでも紅茶でも緑茶でも、アルコール類以外を飲んで、人畜無害じんちくむがいぶりを発揮はっきしててもらえるかしら」

 「凄いやる気だったのにっ」

 「いけませんよ、“こいつ無能だ”と知らしめて頂戴ちょうだい

 面と向かってひどいい事言うね明乃あけのちゃん。まぁ~いいけど、楽だし。


 「昼間はそれで良いとして、夜はどうするんだいダディ」

 「明乃あけのちゃんにおそわった所在地で探すと、ここです。宿泊施設どころか、民間の家も点在しているだけね」

 とはじめちゃんが、桜花おうかの端末を女性陣で見ている。


 「本当ね、十字路の左下にαアルファの家があって、交差点から左へ伸びる道に面している所は木があって、下から上がる道は十字路になるまで、右手が森だからか木は無いけど、家の前には木があって、そこは車が入れるぐらいにしか開いてないよ。左上と右上にも家はあるけど、木が目隠しになってるし、ここ、人住んでるのかしら、はいパパ」


 見終わったフランソワーズから、ジム経由で手渡された。

 ぱぱさんアースを見るとフランソワーズの言う通り。

 しかもビューで見ると、十字路なのに信号が無い。

 さらに周辺には街灯が全く見当たらない。

 βベータ1が運ばれた時間帯は、天の川が見えるほど真の闇でしょうよ。

 見ていたものがあるとすれば、家を隠す木々と、夜の微風そよかぜにざわざわそよぐ牧草に、澄んだ空気のらめきにまたたく星々だろう。

 声を上げてくれていても、人には聞こえないでしょうよ。


 「マッ、所長、警察の宿泊費用はどの程度なのかしら」「確か7000だったかな」

 「マッ、所長」かかって来なさいっ。

 ・・・手の指4本立てて、くぅいっ、くぅいっ、ってしたらそう思うでしょうよ。

 端末をよこせと、はい、突き出された手に乗せればいいのかなぁ~~~。

 「はい、明乃あけのちゃん」


 「7000、やっぱり難しいわ。はじめちゃん率直そっちょくに、可能な限り断定的だんていてきに答えて頂戴ちょうだい

 「何かしら、努力するわ」「今回の案件、どこまで解決が見込めるかしら」


 「私見しけんと個人的願望がんぼうをプラスして答えるわ。γガンマの遺体が握っている髪の毛が全て回収できれば、ほぼ確実にDNAは出ると私は見ているわ。あれは引き千切ちぎられたと言うより、頭皮からむしり取っているわ、それが何本もある。きっと毛球もうきゅうを含んだ物もある。αアルファのDNAサンプルが取れれば必ず一致するわ」


 「事件にすらなっていなかったγガンマの殺害ついては高確率で見込める。本来の依頼案件についてはどうかしら」

 「これまでの案件と同じ、難しいわ。生体情報を探すには時間が経ち過ぎているの。ただ今回は、個人的には口にしたくない言葉だけど、神のみぞ知ると言う程度だけど、ゼロじゃないわ。完全解決の望みはある」


 「そう、はじめちゃん有難う。・・・私も女の子です」「女の子?」

 「んっ、マッ、所長っ。異論があるのかしら」「い、いえ」いつも以上に眼力がんりきが。

 「マイハニー明乃あけの」「ジム、黙って」「Oh」


 「私も女の子です。ウエストをしぼるわ」

 「明乃あけのちゃんダイエット宣言。おっきなお尻を強調するの」


 「むっ、フランソワーズッ、黙って」

 「フランソワーズ、明乃あけのちゃんは腹をくくったと言ったのよ」


 「だったらそう言うばいいのに、どうしてそんな言い方するの」

 「フランソワーズ、この国では比喩ひゆ的な表現が評価されるのよ」

 「わかにくいだけよはじめちゃん」


 「それで明乃あけのちゃん、おっきなお尻を強調すると言うからには」

 「はじめちゃんっ」「うぅん、何か案があるの」


 「ええ、トレーラーハウスホテルを置くのはどうかしら」

 あ~、昨今さっこん流行はやってる、コンテナをトレーラーハウスに改造したあれか。

 確かに、移動式だからスペースとインフラが確保できればどこにでも設置できるでしょうよ。

 しかし、そんなスペースもインフラも宿泊施設もαアルファの家の周りには無いから頭を悩ませていたはずでしょうよ、明乃あけのちゃん。


 「マイハニー明乃あけの、トレーラーハウスを何処に置くんだい」

 「それに明乃あけのちゃん、7000で借りる事は出来ないでしょうよ」

 「ええ、これを見て明乃あけのちゃん、60日以内だと、1室1日34000、警察の宿泊費用7000だと121日以上りないと予算に合わないわ」


 はじめちゃん早い。

 明乃あけのちゃんがテーブルに置いた端末を取り、あっと言う間に検索をしている。

 多分話を聞いてた桜花おうかが用意したのでしょうよ、に入れないから。

 「それにあらかじめ電気、上下水道を引き込んでメーターを設置。ガスはプロパンを置けるスペースが確保できている場所でないと置けないわ」


 「はじめちゃん、間も見て欲しいのだけれど、61日だと1室1日、9000」

 明乃あけのちゃんとフランソワーズが、はじめちゃんの両側からのぞき込む。


 「そのようね」「この差は何」「マッ、所長、最短どの程度の日数見込んでいるのかしら」

 「ざっくりと始めの1週間はγガンマ殺害容疑でαアルファ拘束こうそく、2週目がαアルファの家を家宅捜索かたくそうさくと鑑定待ち、3週目でΔデルタβベータ1に対する遺体遺棄及び強制性交等致死ちし行為で拘束こうそくαアルファβベータ1に対するの遺体遺棄と強制性交等致傷ちしょう行為で再逮捕、そこで俺はお役御免ごめん。後から来る警視けいし警視正けいしせいの人に残す引き継ぎの書類を書いて終り。通常の捜査本部になる感じかな。早くて3週間、遅くても8週間56日ぐらいでしょうよ」


 「なら61日 りましょう」「何処どこに置くのよ明乃あけのちゃん」

 「αアルファの家の前に綺麗きれいな牧草地があるの、見ないのかしら」

 「WOW」「真剣に言ってるの明乃あけのちゃん」「何てことかしら」

 監視かんし対象者の目の前に姿をさらして、業務を遂行すいこうしろと、大胆だいたん過ぎでしょうよ。


 「マイハニー明乃あけの流石さすが大胆だいたん過ぎないかい」

 「そうよ、Δデルタからαアルファに、パパが警官である事が知れるでしょう」

 「ええ、私もそう思うわ、正体が分った時点で逃亡するわ」

 「でしょうよ明乃あけのちゃん、昼間の内に行方ゆくえが分からなくなったら万事休ばんじきゅうすでしょうよ」


 「大丈夫、先ほどまとまった通り、無能無力人畜無害じんちくむがい、優しいだけの役立たず、普段と変わらないマッ、所長を見れば、Δデルタでなくとも本来かかわりのない自衛隊、それも防衛研究戦史研究センターの戦史研究の資料集めにり出された、警察官の職務しょくむまっとう出来ない窓際まどぎわの人間と思い、そうつたえると思うのだけれど」

 立て続けにとてもひどい事を言われた気はするでしょうよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る