第56話 味見

 カウンター越しにチョコソースのタネを渡して、ジムは。

 「待てっ、ジムッ、すとぉーぷっ」

 「何だいダディ、言われた通り卵を入れるところだよ」


 卵を鷲掴わしづかみにして、どうやって割るつもりだ。

 「ジム、卵割った事あるのか」

 「何を言ってるんだい、僕の作った卵料理を食べてたじゃないか」


 確かに、向こうにいた時は、ルームシェアしてたからな。

 ジムに朝食を頼むと機嫌きげんよく作ってくれるが、目玉焼きを頼んでもスクランブルエッグしか出てこなかったでしょうよ。

 かなりの頻度ひんどからが入ってるし、一度口の中を切ったな。

 作る所を見た事が無かったが、長年の謎が解けた。


 「ジム、持ってる卵を俺に渡してくれ」「何故なぜだい」

 「いやっ、やっぱり俺がするよ。生地は大事だからな」

 「そうかい」「あ~、渡してくれ、ゆっくり、そぉ~と、そぉ~とだ」

 「ダディ」「疑っている訳じゃないんだ。その子を俺の渡してくれ」

 「ダディ、僕は凶悪犯かい」ぴと。

 「あんがと。そぉ~だ。ジム、お前卵にぎつぶしてたのかよ」

 よかったぁ~、卵無事だ。


 「このあと混ぜるんだろう、結果は同じだよ、ダディ」

 「からが入るでしょうよ」「カルシウムが摂取せっしゅ

 「皆がお前みたいに、はがねの牙を持ってる訳じゃないっ。俺は昔、口の中を切った」


 「Oh~~~、まだ覚えてるのかい、ダディ」

 「痛い思いをしたからな。さくたんやミス・テリー、かぴたんが口の中を切っても良いのか」

 「Goddamnガッデム(くそっ)!僕としたことが迂闊うかつだったっ。ダディ、頼むよ」


 「シンクにある残りの卵と、ベラを渡してくれ」「僕は何をすればいいのかな」

 レモンソースなら大丈夫だろう。

 「じゃぁ~レモンソースを頼むよ」「OK」


 「蜂蜜はちみつの量を計算するから」え~とレモン4個、200ccぐらいかな。

 25ccで25g、一対一だと。一応たたくと。かちゃかちゃ。


 「ジム、200gだ、中サイズのボウル空いてるだろう。蜂蜜はちみつを入れてくれ」

 「分かったよ」「あっ、空になったビンに、ふたしといてくれよ。後でお湯でくから」

 「ふっ」親指立ててるけど、大丈夫かよ。


 「レモンはさくたんが出してくれてるだろう、4個」

 「あるね、これをしぼって混ぜればいいんだねダディ」

 「そうだ。ベラが無いからスプーンで丁寧に作業してくれ」「お~~~けぇい」


 「さくたん早く」「半分ぐらい入れて」「かぴたんそうなん」

 しゃぁ~~~。「入れたよかぴたん」「かして私がする」「あ~かぴたんが」

 「かぴたんこぼす」「え~、かぴたん出来るのに」


 さぁ~てと、出揃でそろった。ヒーターにふきんをいて卵割るか。

 「う~~~ん、ダディ。このハニーは美味しいね」「だろう。終わったら計量器をシンクの下に戻してくれ」

 「Yes Sirイエス サー!」


 「じゃぁ、まずミス・テリーやって見せて」「まぁ~かせて」

 しゃこしゃこ。「切るみたいにするの」「ちちがそうしてた」


 こん、ぱり。こん、ぱり。しかし、にぎつぶして、よく飛び散らないな。

 こん、ぱり。こん、ぱり。良し、ベラで小麦と砂糖と卵をかき混ぜる。

 バター冷えてるな、まっ、何とかなるでしょうよ。


 しゃこしゃこ。「どろ団子みたいだね」「さくたん水」「次かぴたんするぅ~」

 しゃぁ~~~。「じゃぁ、次かぴたんね」「かぴたんの超絶ちょうぜつ技巧ぎこうを見て」


 こつしゃ~、こつしゃ~。うん、次は牛乳を「ジィーーームッ」「又かいダディ」

 「レモン鷲掴わしづかみで、腕の筋肉盛り上げて何してる」


 しゃこしゃこ。「あ、チョコぽくなって来た」「さくたん水いれて」「次私」

 しゃぁ~~~。「お湯は後ちょっとだけになったよ」「ここからがてかてか」「うん」


 「ジュースをしぼるところさダディ。僕はオレンジもレモンも、何時いつもこうしているよ」

 「さくたんがしぼり器を出してくれてるでしょうよ」


 しゃぁ~こしゃぁ~こ。「ほぉ~てかてか、チョコだ」

 「かぴたん味見」「ふっふぅ~ん」かちゃ。「さくたん、あ~ん」「いいの」ぱく。


 「最後に最愛の人を守れるのは、おのれのパワーだけだよっ。コナン・ザ・グレートを見てないのかいっ、ダディ」

 そんなストーリだったか。


 「!、なっ、何これ、口の中ですぅ~と溶けて、程よいほろ苦さ、前に出過ぎない上品な甘み、あ~立ち昇って来るカカオの風味。美味しいぃ~」


 「かった。分かったから今日は文明の利器りきを使ってくれ」

 「そうかい」「そうだ。使い方は分かるだろう」

 「勿論もちろんさダディ」

 「破壊はかいするなよ。紙の様になるまでしぼるなよ」

 「任せてくれダディ」本当かよ、一抹いちまつの不安が。


 「かぴたん、グッジョブ」

 「ぐふっ、お前の体はもう、これ無しでは生きられないぜ。次かぴいたんね」


 「頼むよ、家賃の支払いがかかってるでしょうよ」

 牛乳は一本が封の開いてる方で、半分ぐらいって言ってたな。

 これか。ぱちゃぱちゃ。だな。


 「はい」しゃぁ~こしゃぁ~こ。「わぁ~凄いてかてか。あっ、二人共味見する」

 「「するぅ~」」「待ってぇ~」かちゃかちゃ。「はい、あ~ん」ぱっくん。「私も」

 「「「ぅぅぅううう~ん」」」「これ出来上がり?」「もうちょっと」「うん、まだだね」


 チョコソースは出来たのかな、味見をしてるでしょうよ。後はこの生地か。

 ぱしゃぱしゃ。ねっちゃ、ねっちゃ。ぱしゃぱしゃ。ねっちゃ、ねっちゃ。

 よっしゃっ。もう一本の牛乳をいれたら生地完成だ。


 作業台にボウルを置いて、IHヒーターにフライパンを二つ置いて。

 「ジムどうだ」「問題ないよダディ」やれば出来るでしょうよ。


 残りの牛乳。ん?さくたん達の手が止まってるね。できたかな。

 「さくたん」「ひゃい」さっきの、のりのりの返事と違うでしょうよ。

 ミス・テリーとかぴたんも伏目ふしめ気味ぎみでしょうよ。


 「出来たかな」「パパさんおわり」「ちち、味見の分が足りない」

 レモンソースも作っといて良かった。まぁ、蜂蜜はちみつもあるから。

 この子達の分は、明乃あけのちゃんもOKでしょうよ。


 「全部食べたの」「おっちゃん、半分ぐらい減った」ココアまだあったな。

 「太るよ」「私は太らないっ」「私もまだいける」「かぴたんもぉ~~~」


 「ボウルを渡して」「あい」あ~100づつぐらい食べてるでしょうよ。

 「ジム、ココアと砂糖を取ってくて」「OK」


 「有り難う。ジム、蜂蜜はちみつ溶けたか」「もう少しだよダディ」

 すぽっ。残ってたのを半分ほど使ったから、残り全部だな。

 じゃぁ~砂糖もさっきと同じ分量、360か

 220g一袋と、封が開いてるのが一袋。


 「ジム、この開いてる方の砂糖は、さっきどのぐらい使った」「10gだよダディ」

 開いてる方は2/3ぐらいか。

 「さくたん、さっきと同じ量のお湯をまた作ってくれるかな」「あいっ」


 「ミス・テリー、かぴたん、味見してもいいけど、晩御飯食べれなくなるよ」

 「大丈夫、遊びに行くから」「かぴたんも行くぞぉーーー」

 「お~、それは急がないと」ココア全部、砂糖一袋と封開きが2/3。


 ぴぃ~ぴぃ~。「おっちゃん、お湯出来たよ」

 「気を付けて二人のところに戻って、たね渡すから」

 「あぁ~い」たたたたた。気を付けて、て言ってるでしょうよ。


 「はいこれね。出来たのと粉が混ざってるから、だまにならない様に丁寧ていねいにするでしょうよ」

 「あいあい」「チョコ増量」「やっふぅ~~~」

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